CIVIL CASE / PLAINTIFF'S PREPARATORY BRIEF No.6
原告準備書面⑹
安全配慮義務違反の補充
PLAINTIFF'S PREPARATORY BRIEF No.6 / SEPTEMBER 1, 2026
準備書面⑹
原告準備書面⑹ 1 / 17
令和7年(ワ)第493号 地位確認等請求事件
原 告 原告X 外1名
被 告 社会医療法人 名古屋記念財団
準備書面(6)
(安全配慮義務違反の補充)
令和8年9月1日
名古屋地方裁判所民事第1部合ホ E 係 御中
原告訴訟代理人弁護士 岩 井 羊 一
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第1 はじめに 本準備書面は、裁判所の求めに応じ、被告の安全配慮義務違反について、従前の主張 を本件事案に即して補充するものである。 すでに安全配慮義務違反の基本的な考え方については、原告の2025年(令和 7 年)5 月9日付第1準備書面で述べたとおりである。 すなわち、客観的にみて過重な業務が課されている場合には、当該業務によって労働者 が精神障害を発病することについて予見可能性が認められ、使用者は、そのような業務を 課さないよう業務量、勤務体制、配置等を調整することによって結果を回避することが可能 である。したがって、使用者が客観的に過重な業務を労働者に課した場合には、安全配慮 義務違反が認められる。 客観的にみて過重な業務が課されている場合には、それによって精神障害を発病するこ とは予見可能であり、かつ業務を課すのは使用者であるから、結果回避可能性も認められ るからである。 原告X、以下「原告」という、は、平成25年7月以降、64列 CT 業務を中心として、極 めて高い検査件数、実質的な件数目標、宿日直・待機勤務、連続勤務、上司らによる継続 的な叱責、CT 撮影者名義に関する不適切な取扱い、放射線漏洩への不安等が重なった 環境下で勤務を継続した。これらの事情は、個別にみても原告に相当な心理的負荷を与え るものであり、かつ相互に重なり合うことによって、客観的にみて過重な業務となった。した がって、被告がこのような業務環境を是正せず原告に勤務を継続させたことについて、安 全配慮義務違反が認められ、その結果、平成27年7月中旬ころ、原告は統合失調症を発 病した。 精神障害の悪化についてであるが、これも原告の第1準備書面でも指摘したが、被告は、 原告の精神障害の発病の事実について認識したのであれば、精神障害が心理的負荷によ って悪化することは通常想定されるのであるから、その原告に対し精神障害の悪化防止の
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ために必要な措置(適正労働条件措置、健康管理、負担軽減等の適正配置及び看護治療 等)を講ずべき義務があった。被告が、原告の精神障害の発病を知ってからは、客観的に 過重な業務を課さないようする義務があることはもちろん、原告の精神障害が悪化しないよ うに必要な措置をとる義務があった。 原告は平成28年6月、当時の上司であった病院関係者Aに対し、自らが統合失調症と 診断されたことを報告した。さらに、遅くとも令和2年9月には、診断書及び障害者手帳の存 在等により、被告は原告が精神障害を有する労働者であることを組織として認識していた。 それにもかかわらず、被告は、原告の業務量、宿日直・待機勤務、感染症対応、配置、 上司との関係、休職・復職の在り方等について、原告の疾病悪化を防止するための実効的 措置を講じなかった。特に、令和2年12月から令和3年2月にかけて発生した院内クラスタ ー対応において、被告は、原告の精神疾患を認識しながら、感染リスク及び心理的負荷の 高い業務に従事させ続け、令和3年3月ころには症状悪化に至った。 したがって、被告には、原告の精神障害の悪化について安全配慮義務違反が認められ る。 以下、発病時点及び悪化時点に分けて、被告がどのような具体的事実を認識し、どのよ うな措置を講じるべきであったかを整理する。 なお、略語については、本準備書面において新たに定義するもののほかは、従前の例に よる。 第2 発病についての安全配慮義務違反 1 上司らによる継続的な叱責・人格否定的言動について 被告は、原告が CT 専従業務に従事していた当時、原告に対し、病院関係者A及びJら から、単なる業務上の注意指導を超える叱責、威圧的言動、人格否定的評価が継続してい
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たにもかかわらず、これを防止し、又は是正する措置を講じなかった。 原告は、病院関係者Aから「馬鹿かお前は」「たわけか」「アホ」「あぁん?」などの威圧的・ 侮辱的発言を受け、また病院関係者Jからも「医療従事者失格」「期待を裏切っている」「感 覚が普通と違う」「価値観がずれている」などの発言を受けていた。これらは、原告の人格や 職業人としての価値を否定する趣旨を含むものであり、単なるミスの指摘や業務改善指導の 範囲を超えるものであった。 また、原告は、ミスや報告漏れがあった際に、長時間立たされた状態で叱責を受けたり、 朝会議等で報告・謝罪を求められたりしていた。これらの指導は、原告の業務能力向上を目 的とする合理的指導というより、原告を精神的に追い詰め、職場内で孤立させる性質を有す るものであった。 被告は、放射線部内でこのような指導が行われていることを把握し得る立場にあった。特 に、指導記録、朝会議議事録、業務日報、部署内の報告体制等からすれば、原告に対する 指導が一時的・偶発的なものではなく、継続的に行われていたことは、少なくとも放射線部 の管理職において把握可能であった。 また被告は病院関係者 A が病院関係者 E との関係において、平成25年にパワーハラス メントで医療安全管理部に通報され問題になったことを把握していた。つまり被告は病院関 係者 A がパワーハラスメントを行うような人物であることを事前に把握することが可能であっ た。にもかかわらず、被告は、病院関係者A及びJに対する注意指導、指導方法の是正、配 置転換、相談窓口への接続等の措置を講じなかった。 したがって、被告は、上司らによる継続的な威圧的・侮辱的言動を防止し、原告の心身の 健康を保持すべき義務に違反した。 2 64列 CT 業務における過大な件数目標について 被告は、原告に対し、64列 CT 業務において、通常の診療放射線技師1名が処理する
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件数を大きく上回る検査件数を継続的に担当させた。 被告は、CT 件数について「部署目標」であり、原告個人に課されたノルマではない旨主 張する。しかし、原告が64列 CT 専従者として実質的に中心的役割を担っていたこと、日々 の検査件数が朝会議等で確認されていたこと、目標未達時には改善提案や反省を求めら れていたこと、目標未達成時にはマイナス査定となることを伝えられていた事実からすれば、 少なくとも原告にとっては、当該件数目標は単なる抽象的目標ではなく、日々達成を求めら れる業務上の圧力として機能していた。 被告は、CT 検査件数、原告の担当件数、放射線部内の人員配置、時間外勤務、休憩取 得状況等を、検査実施記録、勤務表、超過勤務表、朝会議議事録、部署目標等により把握 し得た。したがって、64列 CT 業務が原告に過大な負荷を与えていることは、被告において 容易に認識可能であった。また、検査件数の他院との比較という点では、厚生労働省による 全国統計調査は2年ごとに行われ、その結果は一般に公表されているのであるから、被告に おいては原告に対して過剰な検査目標を与えていることを把握することが可能であった。 被告としては、CT 件数目標の緩和、担当者の増員、16列 CT との業務分担見直し、休 憩時間の確保、検査枠の調整、医師側へのオーダー調整依頼、原告を CT 専従から外す 又は交代制にする等の措置を講じることができた。にもかかわらず、被告は、収益性の高い CT 検査件数を維持することを優先し、原告の心身への負荷を軽減する実効的措置を講じ なかった。 この点において、被告は、原告に過大な業務量を継続的に負担させないよう配慮すべき 義務に違反した。 3 宿日直・待機勤務を含む長時間拘束について 被告は、原告に対し、通常勤務に加えて、宿日直勤務及び待機勤務を継続的に担当さ せていた。
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被告は、宿日直について、実労働時間以外は労働時間に当たらない旨主張する。しか し、本件における宿日直勤務は、単に電話番や軽微な断続的業務にとどまるものではなく、 救急患者に対する一般撮影、CT、MRI、透視撮影、カテーテル検査等、通常業務と同質の 診療放射線技師業務を含むものであった。 また、原告は宿日直中、検査依頼があれば直ちに対応しなければならず、十分な睡眠や 休息が保障されていたとはいえない。待機勤務についても、呼出しから30分以内に病院へ 到着することが求められており、飲酒や遠方への外出等は事実上制限されていた。したがっ て、宿日直・待機勤務は、原告に相当な身体的・精神的緊張を伴う拘束を課すものであっ た。 被告は、勤務表、宿日直表、待機当番表、超過勤務表、タイムカード、検査実施記録等 により、原告がどの程度の頻度で宿日直・待機を担当し、どの程度夜間休日に検査対応を 行っていたかを把握できた。 被告としては、宿日直・待機の担当回数を減らす、休息日を確保する、宿日直明けの勤 務を免除又は軽減する、待機担当を複数名化する、外部委託又は増員を行う、少なくとも実 態に即した労働時間管理を行う等の措置を講じることができた。 それにもかかわらず、被告は、宿日直・待機勤務の実態を軽視し、原告の疲労蓄積や心 理的負荷を防止する措置を講じなかった。 よって、被告は、長時間拘束及び夜間休日対応による健康障害を防止すべき義務に違 反した。 4 連続勤務について 被告は、原告に対し、宿直、日直、待機勤務を組み合わせた結果、十分な休息日を確保 しないまま勤務を継続させた。 被告は、形式上の宿直明け日や待機日を理由に、連続勤務ではない旨主張する。しか
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し、原告にとって、待機日は完全な休養日ではなく、病院からの呼出しや夜間休日検査対 応に備える必要がある日であった。したがって、暦日上休日とされていても、実質的には疲 労回復のための休息日として機能していなかった。 被告は、勤務表を作成・管理していたのであるから、原告の勤務が連続し、休養機会が不 十分であることを容易に把握できた。特に、勤務交代が職員間の要望に基づくものであった としても、最終的に勤務表を承認し、勤務を命じていたのは被告である。 被告としては、シフト作成段階で連続勤務を避ける、宿日直明けの休養を確保する、待機 担当後の勤務を軽減する、勤務交代を承認する際に連続勤務の有無を確認する等の措置 を講じることができた。 にもかかわらず、被告は、形式的な勤務表運用にとどまり、原告の実質的な休養確保を 怠った。 よって、被告は、連続勤務による疲労蓄積及び精神的負荷を防止すべき義務に違反し た。 5 複数名で担当していた64列 CT 業務を実質的に原告1名に集中させたこと 被告は、64列 CT 業務について、原告が実質的に中心となって担当していたにもかかわ らず、補助者であった病院関係者Bの休職等により人的支援が失われた後も、原告の負担 軽減措置を講じなかった。 病院関係者Bは、形式上は16列 CT 等を担当していたとしても、64列 CT 業務において 画像処理、患者対応、検査準備、検査後処理等の支援を行っており、原告にとって重要な 補助者であった。その病院関係者Bが休職することにより、原告は、高件数の64列 CT 業務 を、従前よりも孤立した状態で処理せざるを得なくなった。 被告は、病院関係者Bの身体状況、通院、休職可能性、放射線部の人員配置、64列 CT の件数、原告の担当状況を把握していた。したがって、病院関係者Bの不在により原告の業
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務負荷が増加することは予見可能であった。 被告としては、他の技師を64列 CT 業務に配置する、業務量を制限する、外来 CT 枠を 調整する、原告を一時的に CT 専従から外す、休憩時間を確保する等の措置を講じること ができた。 にもかかわらず、被告は、必要な支援体制を構築せず、原告に高件数 CT 業務を継続さ せた。 よって、被告は、人的体制の不足により原告に過大な心理的負荷が集中しないよう配慮 すべき義務に違反した。 6 患者・依頼先対応及び院内暴力事案への対応について 被告は、原告に対し、患者、医師、依頼元、院内暴力事案等への対応を行わせながら、 その対応に必要な訓練、装備、事後フォローを十分に整備していなかった。 特に、平成27年7月8日のコードホワイト事案では、原告は深夜、暴力的言動を伴う不穏 患者への対応に招集された。原告は、医療従事者であり、警備員や防災担当者ではないに もかかわらず、凶器の有無も不明な状況で現場対応を求められた。さすまた等の装備につ いても、医療従事者が使用することは想定されておらず、原告に対し実効的な安全確保策 が示されていたとはいえない。 また、コードホワイト対応後、原告は当該対応自体の心理的負荷に加え、その後の報告 漏れ等を理由として、病院関係者A及びJから叱責を受けた。これは、危険事案に対応した 職員に対する事後フォローとして著しく不適切であった。 被告は、病院として院内暴力発生の可能性を当然に予見できた。実際にコードホワイト制 度を導入していた以上、暴力的患者対応に伴う職員の危険及び心理的負荷を認識してい たというべきである。
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被告としては、医療従事者が暴力対応に関与する範囲を明確化する、警備員・防災セン ター職員・事務当直との役割分担を周知する、装備や退避手順を整備する、対応後にメン タルフォローを行う、当該対応後の報告漏れ等を理由として一方的に叱責しない等の措置 を講じることができた。にもかかわらず、被告は、危険事案に対応した原告に対し、実効的な 安全確保及び事後支援を行わず、むしろその後の叱責によって心理的負荷を増大させた。 よって、被告は、院内暴力対応に伴う安全確保義務及び事後配慮義務に違反した。 7 放射線漏洩への不安を放置したこと 被告は、原告が64列 CT 室において放射線漏洩を疑い、鉛ガラス窓の改修等を求めた にもかかわらず、十分な説明、再測定、改修、業務軽減等の措置を講じなかった。 本件で問題となるのは、原告の身体被ばく量のみではない。原告は、診療放射線技師と して、放射線管理区域の境界における漏洩線量、安全基準、患者及び職員の安全、施設 基準との関係を理解する立場にあった。その原告が、実際に漏洩を疑い、上司に改修を求 めたにもかかわらず、被告がこれに十分対応しなかったことにより、原告は、安全性・適法性 に疑義を抱いたまま CT 業務を継続せざるを得なくなった。 被告は、CT 室の構造、鉛ガラス、測定記録、管理区域境界の測定方法、施設基準等を 管理する立場にあった。したがって、原告からの申出があった時点で、放射線漏洩に関する 不安が原告の心理的負荷となることは予見可能であった。 被告としては、原告の申出を受けて、第三者業者による適切な測定を実施し、その測定 方法及び結果を原告に説明する、必要に応じて鉛ガラスを改修する、測定結果が確定する まで原告の CT 室勤務を軽減する、放射線管理責任者を通じて相談対応を行う等の措置を 講じることができた。にもかかわらず、被告は、原告の不安を十分に解消しないまま、従前ど おり CT 業務に従事させ続けた。 よって、被告は、放射線管理上の不安を抱えた職員に対し、安全な労働環境を確保し、
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心理的負荷を軽減すべき義務に違反した。 8 CT 撮影者名義に関する不適切な取扱いについて 被告は、64列 CT の施設基準及び専従要件との関係で、原告が実際に撮影した CT 検 査について、別の職員名義で記録するような不適切な運用を行わせた。 原告は、診療放射線技師として、検査実施者名が電子カルテや診療報酬請求に関係す ることを認識していた。そのため、実際の撮影者と記録上の実施者が異なる運用は、原告に とって、職業倫理上及び法令遵守上の重大な心理的負荷となった。 被告は、64列 CT の施設基準、専従者要件、検査実施記録、電子カルテ、診療報酬請 求に関する管理責任を負っていた。また、実施者名の運用は、個々の職員が独断で行える ものではなく、部署内の指示又は黙認がなければ継続し得ない性質のものである。 被告としては、専従要件を満たす人員配置を行う、実際の撮影者を正確に記録する、施 設基準を満たさない場合には適切な届出変更又は請求是正を行う、原告に不正確な記録 を求めない等の措置を講じることができた。 にもかかわらず、被告は、原告に対し、実際の業務実態と異なる記録運用に関与させ、原 告に法令遵守上の強い心理的負荷を与えた。 よって、被告は、職員に不適切な記録運用への関与を強いないようにすべき義務に違反 した。 9 造影検査・重大事故対応に関する体制不備について 被告は、造影 CT 検査において、血管外漏出やアナフィラキシーショック等の重大事象が 生じ得ることを認識しながら、原告ら診療放射線技師に過度な初動対応負担を負わせてい た。 造影剤使用時には、一定の確率で血管外漏出やアナフィラキシーショックが発生する。診
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療放射線技師は、検査実施に関与するものの、患者への医学的処置そのものについては 医師・看護師の対応が必要となる。したがって、造影検査において、医師の立会い又は迅 速対応体制が不十分であれば、実際に現場で患者異変に遭遇する技師に大きな心理的負 荷が生じる。当時被告では低リスク患者に対する医師立ち合いは不要としており、看護師と 診療放射線技師のみで検査を行っていた。中リスク患者であっても、オーダー医師の都合 がつかず代理医師も立てられないときは、医師の立会無しで検査を行っており、アナフィラ キシーショック等の発生時の迅速な処置という面では不十分な面もあった。 被告は、造影検査件数、検査室内の人員配置、緊急時対応手順等を把握していた。した がって、造影検査時の事故対応に伴う原告の心理的負荷は予見可能であった。 被告としては、造影検査時の医師立会い基準をより厳しくする、緊急時対応マニュアルを 整備する、医師・看護師・技師の役割分担を訓練する等の措置を講じることができた。 にもかかわらず、被告は、異常に多い CT 件数を維持する一方で、造影検査時の安全体 制を十分に整えず、原告に重大事故対応への不安を負わせた。 よって、被告は、造影検査に伴う職員の安全確保及び心理的負荷軽減義務に違反した。 第3 悪化についての安全配慮義務違反 1 精神障害の申告後、被告が組織的対応を怠ったこと 原告は、平成28年6月、病院関係者Aに対し、統合失調症と診断されたことを報告した。 この時点で、少なくとも病院関係者Aは、原告が精神障害を有する状態で勤務を継続し ていることを認識した。ところが、病院関係者Aは、原告の病状を人事部門、産業医、職場の 上位管理者等に適切に共有せず、原告に対する業務軽減、配置転換、産業医面談、勤務 内容の見直し等の措置を講じなかった。 仮に被告が、病院関係者Aから組織として報告を受けていなかったと主張するとしても、 それは被告内部の報告体制の問題にすぎない。精神障害という重大な健康情報を上司が
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把握したにもかかわらず、組織的な健康管理・労務管理につなげる仕組みがなかったので あれば、そのこと自体が安全配慮義務違反を基礎づける事情である。 被告としては、原告の精神障害申告を受けた時点で、産業医面談を実施し、業務内容、 時間外労働、宿日直・待機勤務、CT 専従の継続可否、上司との関係、配置転換の必要性 等を検討すべきであった。 それにもかかわらず、被告は、原告の疾病を個人的問題として扱い、組織として疾病悪化 防止措置を講じなかった。 2 令和2年9月以降の配慮義務違反 遅くとも令和2年9月には、被告は、診断書提出により原告が精神障害を有し、勤務上の 配慮を要する労働者であることを組織として認識していた。 この段階では、被告は、単に「当直勤務は可能か」「当直明けに配慮すれば足りるか」とい う形式的な検討にとどまるべきではなかった。原告の疾病の性質、過去の発病経過、労災請 求内容の検討、職場内の対立、宿日直・待機勤務、通常業務の負荷、感染症対応の可能 性等を踏まえ、より広く悪化防止措置を検討すべきであった。 具体的には、被告は、原告について、通常業務の範囲、残業・休日勤務の可否、宿日 直・待機勤務の担当可否、感染症対応への配置、配置転換の可否、休職・短時間勤務・段 階的勤務の必要性等を検討すべきであった。 しかし、被告は、原告の精神障害を認識しながら、原告に対する十分な業務軽減や配置 上の配慮を行わず、原告を従前の業務のまま勤務させ続けた。 この点において、被告は、精神障害を有する労働者の病状悪化を防止すべき安全配慮 義務に違反した。 3 院内クラスター発生時の業務指示・配置上の配慮義務違反
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令和2年12月、被告病院において新型コロナウイルス感染症の院内クラスターが発生し た。放射線部でも職員の感染又は濃厚接触により、多数の職員が出勤できなくなり、原告を 含む少数の職員で放射線部業務を維持せざるを得ない状況となった。 このような状況では、被告は、精神障害を有する原告に対し、感染リスクの高い業務、レッ ドゾーン対応、NC 疑い・陽性患者対応、宿日直・休日対応等をどの範囲で担当させるかに ついて、特に慎重に検討すべきであった。 また、被告は、放射線部の指示系統、出勤停止者が出た場合の代替体制、少人数勤務 時の業務分担、当直明けの取扱い、感染リスクの高い検査対応手順等を事前に整備すべき であった。 しかし、実際には、クラスター発生後、放射線部の指示系統は混乱し、原告は明確な業務 指示がない中で、翌日以降の業務体制に強い不安を抱いた。原告が病院関係者Lに相談 するため資料を作成し、現場の維持に向けて自主的に動いたところ、病院関係者Gから叱 責を受け、「診断書を盾にとって脅しだね」との趣旨の発言を受けた。 被告は、精神障害を有する原告に対し、非常時における明確な指示、業務軽減、精神的 フォロー、上司との調整を行うべきであった。にもかかわらず、被告は、クラスター対応の混 乱を現場職員に負担させ、原告の心理的負荷を増大させた。 よって、被告は、院内クラスターという非常時における精神障害を有する労働者への配置 上・業務指示上の配慮義務に違反した。 4 令和3年3月以降の悪化徴候への対応義務違反 令和3年3月頃、原告には、有給休暇の増加、日中倦怠感の増悪、幻聴又は幻視、フル タイム勤務困難等の悪化徴候が現れていた。 そして、令和3年4月9日には、産業医が、原告の統合失調症の病状悪化、勤務を休むこ との増加、日中倦怠感の増悪、幻聴等を把握し、このまま仕事を継続すれば潰れてしまうの
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ではないかという原告の不安を踏まえ、休職措置を検討している。 この段階で、被告は、原告の症状が単なる一時的不調ではなく、業務継続が困難となる 程度に悪化していることを認識していた。 被告としては、直ちに業務負荷を軽減し、宿日直・待機・感染症対応から外し、休職開始 までの間も勤務内容を限定し、原告に不利益が生じない形で療養に移行させるべきであっ た。また、休職期間中及び休職期間満了前には、主治医・産業医の意見を踏まえ、復職可 能性、配置転換、短時間勤務、業務軽減、休職延長等を検討すべきであった。 にもかかわらず、被告は、令和3年3月及び4月も従前と変わらない業務に従事させただ けでなく、原告を令和3年5月1日から休職させた後、原告の疾病が業務上又は少なくとも業 務により悪化した可能性を十分検討せず、私傷病休職期間満了を理由として自然退職扱い とした。 この対応は、精神障害を有する労働者の療養・雇用継続に関する配慮を欠くものであり、 安全配慮義務に違反する。 第4 悪化についての安全配慮義務違反(付随する事情に関するもの) 1 証拠収集・労災請求をめぐる職場不信への対応義務違反 原告は、労災請求を検討する過程で、朝会議議事録、指導記録、業務資料等の散逸・削 除を疑わせる事情に直面し、被告に対する強い不信を抱くようになった。 労災請求や内部告発を検討する労働者にとって、使用者側が関連資料を適切に保存 し、誠実に対応するかどうかは、心理的安定に直結する問題である。特に、精神障害を有す る原告においては、職場が資料を隠す、削除する、相談内容を漏らす、労災申請を妨害す るのではないかという不信は、症状悪化の要因となり得る。 被告は、原告が労災請求を検討していること、過去の業務負荷や上司の指導記録が問 題となり得ることを認識し得たのであるから、関連資料の保存、窓口の明確化、原告への説
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明、産業医又は人事部門による中立的対応を行うべきであった。 にもかかわらず、被告は、原告の不信を解消するための措置を講じず、むしろ鍵の保管 場所変更、資料複写の拒否、指導記録や朝会議議事録削除の疑い等によって、原告の不 安及び職場不信を増大させた。 よって、被告は、精神障害を有する労働者が労災請求等を検討する場面において、資料 保存及び誠実対応により心理的負荷を軽減すべき義務に違反した。 2 自然退職扱い前の安全配慮義務違反 被告は、原告を令和3年10月31日付で自然退職扱いとした。 しかし、原告の休職は、単なる私傷病によるものではなく、少なくとも被告の業務及び職場 環境により悪化した統合失調症に基づくものであった。被告は、遅くとも令和2年9月以降、 原告が精神障害を有することを認識し、令和3年4月には産業医を通じて病状悪化及び休 職の必要性を認識していた。 そのため、被告は、自然退職扱いを行う前に、原告の疾病が業務に起因し、又は業務に より悪化した可能性を調査すべきであった。また、主治医・産業医の意見を確認し、復職可 能性、配置転換、業務軽減、休職延長、障害者雇用上の合理的配慮等を検討すべきであ った。 にもかかわらず、被告は、原告の疾病と業務との関係を十分検討せず、形式的に休職期 間満了を理由として自然退職扱いとした。 これは、業務上疾病又は業務により悪化した疾病によって休業している労働者に対し、使 用者が一方的に雇用関係を終了させるものであり、安全配慮義務及び労働者の健康保持 義務に反する。 第5 小括
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本件においては、被告が、 第1に 1 原告に対する継続的な威圧的・侮辱的指導を把握し得たこと 2 64列 CT 業務の異常な件数及び実質的な件数目標を把握し得たこと 3 宿日直・待機勤務を含む長時間拘束を把握し得たこと 4 連続勤務及び休養不足を勤務表等から把握し得たこと 5 病院関係者B休職等による64列 CT 業務の人的支援喪失を把握し得たこと 6 コードホワイト等の危険事案対応に伴う心理的負荷を把握し得たこと 7 放射線漏洩への不安及び CT 撮影者名義に関する不適切運用の心理的負荷を把握し 得たこと 以上の各事情からすれば、被告は、①原告に対する継続的な威圧的・侮辱的指導、②64 列 CT 業務の異常な件数及び実質的な件数目標、③宿日直・待機勤務を含む長時間拘 束、④連続勤務及び休養不足、⑤病院関係者Bの休職等による人的支援の喪失、⑥コード ホワイト等の危険事案対応に伴う心理的負荷、⑦放射線漏洩への不安及び CT 撮影者名 義に関する不適切運用による心理的負荷を把握できた。これらは相互に重なり合って、客 観的に過重な業務となっていたにもかかわらず、被告は、業務量の軽減、勤務体制の見直 し、配置転換、指導方法の是正等の原告の業務が過重にならないようにする措置等を講じ なかった。したがって、被告には、原告の発病について安全配慮義務違反が認められる。 第2に 被告は、平成28年6月以降、原告が統合失調症と診断されたことを少なくとも上司を通じ て認識し得た。さらに、令和2年9月以降は、診断書等により、原告が精神障害を有し勤務 上の配慮を要する労働者であることを組織として認識していた。それにもかかわらず、被告 は、業務量の軽減、宿日直・待機勤務の免除又は制限、配置転換、休職調整、復職可能性
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の検討、関連資料の保存、感染症対応時の配置上の配慮等を講じなかった。したがって、
被告には、原告の精神障害の悪化についても安全配慮義務違反が認められる。
また、原告の休職が、被告の業務及び安全配慮義務違反に起因し、又は少なくともこれ
により悪化した疾病に基づくものである以上、被告が、業務起因性又は業務による悪化の可
能性を十分に調査・検討しないまま、私傷病休職期間満了を理由として原告を自然退職扱
いとしたことは許されない。
よって、原告の地位確認請求、賃金請求及び損害賠償請求は認容されるべきである。
以上