CIVIL CASE / 8th HEARING
原告 準備書面(5)
PLAINTIFF'S PREPARATORY BRIEF NO. 5 / APRIL 14, 2026
準備書面(5)
令和8年4月14日 原告提出
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令和7年(ワ)第493号 地位確認等請求事件
原 告 原告X 外1名
被 告 社会医療法人 名古屋記念財団
準備書面(5)
(被告準備書面への反論と原告主張)
令和8年4月14日
名古屋地方裁判所民事第1部合ホ E 係 御中
原告ら訴訟代理人弁護士 岩 井 羊 一
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第1 はじめに 原告は、本準備書面において、令和8年3月23日付被告の準備書面に対し、必要 と認める範囲で反論し、また訴状等の主張を補充する。なお、略語については、本準 備書面において新たに定義するもののほかは、従前の例による。 第2 被告準備書面に対する反論 1 被告の主張の構造 被告は、一般社団法人日本画像医療システム工業会策定の「X線診療室の管 理区域漏えいX線量測定マニュアル」 (乙第14号証)を根拠として、CT装 置における漏洩線量測定については積算線量を指標とする方式が適切であり、 乙第7号証及び乙第8号証における測定方法に誤りはないと主張する。 しかしながら、本件の争点は、いずれの測定モードが一般論として適切であ るかという抽象的問題ではなく、当該測定方法が本件CT室における漏洩の有 無及び安全性を合理的に判断し得るものであったかという点にある。 被告の主張は、業界団体の技術的指針を根拠として測定方式の一般的適否を 論じるにとどまり、当該測定が本件の具体的状況において低線量漏洩を検出し 得るものであったかという核心的問題に答えるものではない。 また、線量率測定と積算線量測定は排他的な関係にあるものではなく、測定 目的に応じて補完的に用いられるべきものである。したがって、特定の測定モ ードを採用していること自体をもって測定の適切性が直ちに基礎づけられるも のではない。 2 法的判断基準は行政通達および JIS 規格に基づくべきこと 医療機関における放射線管理および漏洩線量測定は、患者および医療従事者 の安全確保を目的とするものであり、その適否は、医療法および関連法令の解
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釈指針である行政通達に基づいて判断されるべきものである。 この点、甲第131号証(厚生労働省医政局長通知)においては、漏洩線量 測定について、 ・線量率測定による方法も可能であること ・積算線量による測定を行う場合には、1週間又は1か月間等の一定期間にお ける測定が望ましいこと が明示されている 。 原告が用いた JIS 規格は、日本産業標準調査会(JISC)の審議を経て、経済 産業省などの大臣が制定する「日本産業規格(Japanese Industrial Standards) 」の略称である。この規格は、製品のサイズ、品質、試験方法など を統一し、互換性の確保、消費者保護、技術の発展を目的とした国家規格であ るが、こちらでも漏洩線量測定については線量率測定で行うことを否定してい ない。 原告の用いた線量率測定は問題がない。一方、被告が用いた積算線量測定を 採用する場合では、その測定は一定期間にわたるものでなければならず、短時 間の測定によって漏洩の有無を判断することは、上記行政通達では想定されて いない。 行政通達は医療機関における安全管理の最低基準を示すものであり、これを 満たさない測定は安全配慮義務を尽くしたとは評価できない。 また被告は原告の測定方法が、照射中に線量が変動しない場合に適した連続 曝射での測定を前提としており、X 線 CT 装置は連続曝射装置には該当しない旨 を述べるが、X 線 CT 装置にも CT ガイド下生検などの検査に対応するため透視 撮影モードが実装されており、安定した連続曝射は可能である。実際に甲7で は時定数の3倍を超える時間の連続的かつ安定的な照射が確認できる。
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3 被告測定方法の不適合性 これに対し、乙第7号証および乙第8号証における測定は、 「1.5秒曝射 を10回」という極めて短時間の照射によるものであり、総照射時間はわずか 15秒に過ぎない。 このような測定方法は、前記行政通達が求める「1週間又は1か月間等の一 定期間」による積算測定とは本質的に異なるものであり、行政基準を充足しな い。 したがって、被告の測定は、積算線量測定という形式を採用しているにすぎ ず、その実質においては適切な積算測定とは評価し得ない。 4 技術的にも漏洩を検出し得ない測定であること さらに、原告が実測した漏洩線量は8μSv/h であるところ、被告の測定条件 (15秒照射)にこれを当てはめると、 8 μSv/h ×(15秒 ÷ 3600秒)= 0.033 μSv となる。 この値は、乙第7号証及び乙第8号証における積算線量計の最小指示値 (0.1μSv 未満)を大きく下回るものであり、当該測定方法では、実際に漏 洩が存在したとしても、計測上は常に「0」と表示されることになる。 すなわち、被告の測定方法は、低線量漏洩の有無を判定するための測定レン ジを有しておらず、構造的に漏洩を検出し得ないものである。 5 乙第14号証の法的限界 被告は、乙第14号証に基づきCT装置においては積算線量測定が適切であ ると主張するが、同号証はあくまで業界団体が策定した技術的指針にすぎな い。 医療機関に課される安全管理義務は、行政法規およびその解釈指針に従って
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判断されるべきであり、業界団体のマニュアルによってこれを左右することは できない。 したがって、乙第14号証は、行政通達に優先する規範とはなり得ず、被告 の測定方法の適法性を基礎づける根拠とはならない。 6 X 線漏えいの原因について 平成21 年にCT装置が導入された部屋は、もともと 64 列CTを想定した設 計ではなく、断層撮影室として設計されていた。それより出力が増大される装 置であるCT装置を導入する場合、遮蔽構造が不十分な可能性があり、検証が 必要であった。 しかしながら、導入時の測定は、前述のとおり検出能力に疑義のある方法で 行われた。その後も半年ごとの漏洩線量測定において、簡易的な方法の測定が 継続された。具体的には、JIS 規格に準拠した水ファントムではなく、透析用 ポリタンクに水道水を入れた簡易代用品が用いられていた。これは、病院関係 者Aによる組織的運用であった。その結果、漏洩は検出されなかったが、この ような簡易な方法であり、実際には漏洩があった。 平成27年、原告は、JIS 規格に則った測定を行った。その理由は、上司で ある病院関係者Jが当該ポリタンクによる測定方法に疑義を抱き、原告に対し 「自分の担当装置だけでも正しい方法で測定すべき」と指示したからである。 原告自身も、同年7月受験予定であった肺がん検診認定技師資格試験におい て精度・品質管理が試験項目に含まれていたことから、測定方法の適正性の重 要性を強く認識していた。その結果、8μSv/h の漏洩が検出された。 これは、CT装置が導入された部屋はCT装置の放射線の漏えいを防ぐまで の構造ではなかったからである。 平成27年時点で、被告内部において漏洩の存在は認識可能であり、かつ実
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際に認識されていた。その後も「漏洩なし」との記載が継続されたのは、被告 が、適切な安全管理を行っていなかったからである。 仮に乙第14号証に基づく測定方法自体が一定の合理性を有するとしても、 当該方法が低線量漏洩を検出し得ないことが明らかである以上、その結果をも って安全性が確保されていると評価することはできない。 7 精神障害の発病との因果関係について 本件において原告が主張する心理的負荷は、単に放射線被曝そのものによる 身体的影響に限られるものではない。 原告が直面したのは、漏洩の存在を認識しながら、それがCT撮影に係る安 全基準や運用の適正性に疑義を生じさせるものであり、当該状態のもとで業務 を継続することが適切であるのかについて重大な疑念を抱きつつ、業務の継続 を余儀なくされたことにある。すなわち、適法性・適正性に疑義のある医療行 為に事実上関与させられる立場に置かれたのである。 これは、違法な業務への関与を強いられる状況であり、「強」の心理的負荷 があったといえるほど重大な出来事である。 さらに、本件における心理的負荷の重大性を基礎づける事情として、当該C T装置による診療が相当規模の診療報酬請求に関わるものであった点も重要で ある。原告は、漏洩が存在をすれば、当該診療が制度上の算定要件との関係で 問題を生じることを認識していた。すなわち、安全基準を満たさない状態で診 療が行われていれば、その診療行為は診療報酬の算定要件に疑義が生じる。月 間CT撮影件数は概算 2000 件であり、そのうち 64 列CTの撮影件数は、平成 21年(2009 年)から平成 27 年(2015 年)までの7年間については月約 1500 件、CT撮影の本来価格を 1 件 18,000 円(患者 3 割負担 5,400 円)として計 算すると、算定額は以下のとおりとなる。
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平成21 年(2009 年)から平成 27 年(2015 年)まで 18,000円 × 1500 件/月 × 7 年 × 12 か月 = 2,268,000,000 円 原告が漏洩を認識し、病院関係者Aに報告した時点において、当該CT装置 に係る診療は既に約22億6800万円規模の診療報酬請求に関わるものであ った。 このように、当該診療の適法性に問題があり、極めて大きな影響が生じる状 況にあったから、原告は、自らの業務が重大な問題に関与していると認識して おり、その心理的負荷は強かった。 また、病院関係者Aは、当該CT問題について深刻に悩み、自死に至った。 原告は病院関係者Aに対し、遮蔽構造の是正(窓ガラスの修繕)を求めた が、病院関係者A「そんなこと上に言えるかよ!」と拒否した。原告は、その 後も業務の継続を求められた。このことは、認定基準における「業務に関連し 違法な行為や不適切な行為等を強要された」の心理的負荷が「強」と評価され る類型(重大な違法行為に関与させられる状況)に当てはまる。 漏洩の存在を認識しながら業務継続を強いられたことが、強い心理的負荷で あり、本件発病との相当因果関係を基礎づける。 8 放射線漏洩は、施設基準を満たさず重大な違法行為であること 施設基準は、一定の人員要件や設備要件を充足していることを前提として、 地方厚生局への届出により診療報酬の算定を可能とする制度上の要件である。 届出済みの施設基準を満たしていないまま診療報酬請求を継続することは、違 法である。実際、甲 132 号証においても、 「施設基準」とは「一定の人員要件 や設備要件を充足している場合に、地方厚生局へ届出を行うことにより、診療
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報酬が算定可能となるもの」と明示されている。 施設基準違反した医療機関は、保険医療機関の指定取消等の重大な処分がさ れている。 甲132号証の平和リハビリテーション病院の事例では、届出済みの施設基 準につき、基準を満たさない状態であったにもかかわらず変更の届出を行わな いまま診療報酬を請求していたことが問題とされ、健康保険法80条2号、3 号及び6号に基づく保険医療機関の指定取消処分が行われている。同事例で は、療養病棟入院基本料 1 について、実際には病棟に勤務する看護職員又は看 護補助者の数が施設基準を満たしていないにもかかわらず、変更の届出を行わ ないまま診療報酬を不正に請求していたと認定されており、不正請求額は79 9件、1億8015万7439円に上るとされている。保険医療機関の再指定 について、原則として5年間行わないとされている。 また、甲133号証の小張総合病院の事例では、一般病棟入院基本料7対1 の施設基準の届出について、病棟に勤務していない看護職員が病棟に勤務した ものとして記載されていたことが確認され、事実と異なる届出を前提に不正に 診療報酬を請求していた疑義が濃厚となったことから、監査が実施され、最終 的に保険医療機関の指定取消相当とされている。同事例では、監査で判明した 不正請求額だけでも27,046件、5億7009万9450円に及び、さら に監査で判明した以外の分についても5年前まで遡って保険者に返還させる取 扱いが示されている。 このように、施設基準違反は、実際に監査、指定取消、取消相当、返還等の 重大な行政上の不利益処分につながるものである。 放射線漏洩の問題は、是正や防護措置を要する事項として扱われている。甲 134号証は、大分県東部保健所診療放射線担当が作成した資料であり、 「漏
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洩線量測定を実施した結果、漏洩のある箇所が判明したが、何も対策していな い場合」という事例について、指導事項として、 「職員等の被ばくを出来るだ け合理的に軽減させるという観点から、職員等が無駄な被ばくをしないような 措置を講じること」と明示している。さらに同資料は、医療法施行規則30条 の4、30条の18、30条の27、電離放射線障害防止規則1条、54条等 を関係法規として掲げ、X線診療室の基準を満たしていても、漏洩線量測定で 画壁等の漏洩が判明した場合には、職員や来院者が無駄な被ばくをするおそれ のある箇所について、注意書き等の表示をするか、又は追加の放射線防護措置 を講ずるよう求めている。 したがって、施設基準違反や放射線漏洩は、監査、取消、取消相当、返還、 是正指導及び追加防護措置の対象となる重大な問題である。そして、これらの 問題により現実に行政処分を受ければ、病院自体の不利益にとどまらず、当該 医療機関で診療を受ける患者や、そこで勤務する他の職員も影響が及ぶ。 原告が本件CT室における漏洩を認識し、その状態の下でCT撮影業務が継 続されていることについて、診療体制や診療報酬請求、放射線防護による健康 被害に重大な問題意識を抱いたことには、当然のことである。 原告は、専門職として、自らが従事し続ける行為が、違法であり、患者や他 の職員にも影響を及ぼす状況に自らが加担させられているという強い葛藤と切 迫感の下に置かれていたのである。このような心理的負荷は、深刻なものであ った。 原告は、このことで強い心理的負荷を受けた。 9 まとめ 以上のとおり、被告は「積算線量測定を採用している」という点のみをもっ て測定が適切である旨の主張をするが、行政通達が要求する測定条件を満たし
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ておらず、かつ技術的にも漏洩を検出し得ない測定である以上、乙第7号証及 び乙第8号証は、本件CT室における漏洩の不存在を基礎づける証拠とはなり 得ない。測定方法が形式的に違法でないことは、漏洩不存在の証明にはならな い。 漏洩の存在を認識しながら業務継続を強いたこと自体が強度の心理的負荷を 構成する。 本件の争点は、測定方法の形式論ではなく、被告が安全管理上合理的な対応 を尽くしたか否かである。 被告の主張はいずれも責任回避のための主張にすぎず、本件安全配慮義務違 反の成立を左右するものではない。 以上