CIVIL CASE / 2nd HEARING
原告 第1準備書面
PLAINTIFF'S PREPARATORY BRIEF NO. 1 / MAY 9, 2025
第1準備書面
安全配慮義務違反について
準備書面(1)
令和7年(ワ)第493号 地位確認等請求事件
原 告 原告X 外1名
被 告 社会医療法人 名古屋記念財団
第 1 準 備 書 面
2025年(令和7年)5月9日
名古屋地方裁判所 民事第1部 合ホE係 御中
原告ら訴訟代理人弁護士
はじめに
原告らは、本準備書面において、令和7年2月3日付原告らの訴状について、裁判所の求めに応じて補充する。なお、略語については、本準備書面において新たに定義するもののほかは、従前の例による。
安全配慮義務違反について
安全配慮義務について
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働ができるよう、必要な配慮をするものとする。」(労働契約法5条)とされている。
安全配慮義務違反が認められるためには、結果についての予見可能性と結果の回避可能性の存在が前提となるとされている(最高裁第三小法廷昭和59年4月10日判決)。
客観的にみて過重な業務が課されている場合の安全配慮義務
⑴ はじめに
客観的にみて過重な業務が課されている場合には、精神障害の発症及び自殺について安全配慮義務違反は認められる。
⑵ 大島論文の指摘
「いわゆる過労死及び過労自殺における使用者の損害賠償責任(上)」(判例タイムズ1348号37頁)(甲118)、「いわゆる過労死及び過労自殺における使用者の損害賠償責任(下)」(判例タイムズ1349号38頁)(甲119)(以下「大島論文」という。)は、過労自殺の事案の安全配慮義務違反に必要な予見可能性について裁判例を分析した上で次のような指摘をしている。「長時間労働や標準的労働者からみて、強い心理的負荷を与えるような業務上の出来事があった場合には、使用者等において、それを認識していたか認識し得たときは、うつ病等の精神障害を発症しうることは当然に予想でき、さらに、うつ病等の精神障害の多くは自殺念慮が出現する蓋然性が高いのであるから、自殺に至ることも通常あり得ることであり、過重な業務等に対する認識可能性があれば足りるということができる。」(甲118・43頁)
⑶ 石村論文の指摘
「労災民事訴訟に関する諸問題について-過労自殺に関する注意義務違反、安全配慮義務違反と相当因果関係を中心として-」(判例タイムズ1425号30頁)(甲120)(以下「石村論文」という)は、次のように指摘する。
「客観的にみて過重な業務が課されている場合には、精神障害の発症及び自殺機序に関する知見を踏まえると、使用者側において、客観的に過重な業務であること及び健康状態の悪化の危険についての予見が有りさえすればよく、精神障害の発症及び自殺について具体的に予見可能性がなくとも良いのであるから、上記のような争いは、少なくとも客観的に過重な業務が課されている場合には、ほぼ主張自体失当に近いということができるのではなかろうか。」(甲120・41頁)
「(1)安全配慮義務違反と因果関係とが実質的に重なり合うことについて
これまで検討したように、客観的に見て過重な業務が課され、そのことについて使用者側の認識・予見可能性があり、健康状態の悪化について抽象的な認識・予見可能性があれば、結果(精神障害発症及び自殺)についての認識・予見可能性がなくとも、注意義務ないしは安全配慮義務違反が生じるとともに、同義務違反と精神障害も肯定されることになる。
他方、業務が客観的にみて過重なものとまで言えない場合には、精神障害発症及び自殺についての具体的な認識・予見可能性がなければ、注意義務ないしは安全配慮義務は生じず、相当因果関係も認められないことになる。」(同42頁)
客観的に過重な労働が認められること
本件における原告の主張
原告らは、訴状において、原告Xの発病に関しては、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」に該当すること(6頁)、「達成困難なノルマが課せられた・対応した・達成できなかった」に該当すること(6頁)、「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」に該当すること(7頁)、「2週間以上にわたって連続勤務を行った」に該当すること(9頁)、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」に該当すること(9頁)、「複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった」に該当すること(10頁)、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」又は「顧客や取引先から対応が困難な注文や要求等を受けた」に該当すること(10頁)、「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」に該当すること(11頁)、「業務に関連し、違法な行為や不適切な行為等を強要された」に該当すること(12頁)、「業務に関連し、重大な人身事故、重大事故を起こした」に該当すること(13頁)を指摘した。
また悪化に関しては、「上司とのトラブルがあった」に該当すること(14頁)、「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」に該当すること(16頁)を指摘した。
そして、その心理的負荷について認定基準にあてはまると発病に関しては心理的負荷の強さが「強」が2個、「中」が8個認められ、悪化に関しては「強」が1個、「中」が1個認められ、総合的な心理的負荷が「強」であると主張した。
そうすると、被告は、原告に対し、客観的に見て強い心理的負荷が生じる業務に従事させたことになる。
原告らの主張する安全配慮義務違反の内容
そして、被告は、客観的に過重な業務であることについて認識しているのであるから、健康状態の悪化の危険についての予見があるといえるので、原告Xの精神障害の発病についても予見可能性があるというべきである。
つまり、本件の争点は、安全配慮義務違反及び不法行為責任の有無であるが、それが認められるための争点は、客観的に過重な業務であったかどうかということである。言い換えれば、業務起因性が認められるか否かといってもよい。
原告らの主張した、各事実が、それ自体、あるいはそれが他の事実と総合評価して強い心理的負荷を受ける事実であると認められれば、被告の安全配慮義務違反の過失も認められるのである。
この場合、被告には、客観的に過重な業務とならないように配慮する義務があり、これに違反したことが安全配慮義務違反の過失というべきである。
悪化についての安全配慮義務
原告Xが統合失調症を発病しており被告がこれを知ってからの安全配慮義務
原告Xは、平成28年4月1日、〇〇クリニックを受診し、同年6月上旬「統合失調症」の診断を受け、以後治療を受けていた。
原告Xは、その後も、被告において勤務を続けていた。原告Xは、被告の当時の技師長に統合失調症であると報告していた。
この段階で、被告は、原告Xが、統合失調症であることを認識していた。
また、原告Xは、遅くとも令和2年9月に、統合失調症の診断書を提出している。
被告は、原告Xの統合失調症の発病を知っていたのであるから、業務の負荷が強ければ、統合失調症が悪化する可能性があること通常想定されうるのであり、事業者に対し労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めている労働安全衛生法65条の3の趣旨に照らしても、統合失調症の発病の事実について認識したのであれば、その段階での安全配慮義務が生じうると言える。この場合の義務の内容は、原告Xの精神障害の悪化防止のために必要な措置、(適正労働条件措置、健康管理、負担軽減等の適正配置及び看護治療等)を講ずべき義務ということになる(石村論文・甲120・38頁)。
安全配慮義務違反の事実
原告Xが精神障害を発病したあとも、令和2年の間、訴状14頁4⑴のアからウ記載の内容のトラブルがあり、上司とのトラブルがあった。
また、同16頁4⑵記載の通り、令和2年年末頃には、感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した。
被告は、原告Xが、統合失調症を発病していたことから、原告Xの労働条件を適正にし、健康の管理をし、負担を軽減させるなどの措置を講ずる義務があったにもかかわらず、上記トラブルによる心理的負荷を受けさせたほか、感染症の拡大の際には感染の不安の感じさせられる業務に従事させた。
被告は、原告Xに対する安全配慮義務違反の過失が認められる。
以上