令和6年(行ウ)第13号 療養補償給付不支給処分取消請求事件
令和6年(行ウ)第40号 休業補償給付不支給処分取消請求事件
原 告 原告X
被 告 国(処分行政庁 名古屋東労働基準監督署長)
準備書面(6)
(被告第5準備書面への反論と補充)
令和7年10月29日
名古屋地方裁判所民事第1部合ホE係 御中
原告訴訟代理人弁護士 岩 井 羊 一
第1 本書面の趣旨
本準備書面では、令和7年9月12日付の被告第5準備書面に対し必要な範囲で反論する。また原告準備書面(1)について補充をする。なお、略語等は、本準備書面で新たに用いるもののほかは、従前の例による。
第2 発病の業務起因性について
1 原告の宿日直勤務について、勤務時間全体を労働時間に含まないとする被告の主張に理由がないこと
ア 労災補償業務の運営にあたって留意すべき事項についての通達内容
通達では、「労災認定のための労働時間は、労働基準法第32条で定める労働時間と同義であり、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであることを留意の上、当該労働者の労働時間については、使用者の指揮命令下にあることが認められる時間を的確に把握すること。」としている(甲78)。
イ 宿日直時間は使用者の指揮命令下に置かれていることが前提であること
労働基準法41条3号は、監視又は断続的労働に従事する者で使用者が行政官庁の許可を受けたものについては、同法第4章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しない旨を定めている。
一方、労働基準法施行規則23条は、使用者は、宿直又は日直の勤務で断続的な業務について所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合は、これに従事する労働者を法32条の規定にかかわらず使用することができると定めている。
そして、上記規則により適用が除外されるのは、法32条に限られるものではなく、労働基準法上のその他の労働時間に関する規定、休憩や休日に関する規定も含まれる。
上記労働基準法41条3号の監視労働とは、原則として一定部署にあって監視するのを本来の業務とし、常態として身体又は精神的緊張の少ないもの、断続的労働とは、休憩時間は少ないが手待ち時間は多いものをいうと解されるところ、これらの労働は労働密度が薄く、精神的肉体的負担も小さいことから、当該労働時間は、全て使用者の指揮命令下にある労働時間であることを前提とした上で、所轄労働基準監督署長の許可を受けることを条件として、労働基準法32条その他同法上の労働時間に関する規定、休憩や休日に関する規定の適用を免れるとしたものと解される。(判旨:平成21年(行コ)第81号 大阪高裁平22.11.16判決)
ウ 当直許可書に違反していれば勤務時間全体が労働時間になること
審査請求においては「許可基準をみたしていない、違法性がある当直勤務は、是認できるものではない。」と明確に述べている(甲64の671頁)。つまり許可基準を満たしていなければ、勤務時間全体が労働時間になることを被告もすでに認めている。
エ 許可基準を満たしていなかったことについて
これまでの原告の準備書面の繰り返しになるが、
病院は宿日直許可書の付款にある17:00より前に勤務につかせないこと。8:30以降に勤務に付かせないことという点を守っていなかった。
第三豊郷ビル407号室は待機勤務者が寝泊まりに使っており、当直者には当直室と呼べるようなものはなく、適切な睡眠設備が設けられていたとは言えなかった。
評価期間中の実労働率は拘束時間に対する23.5%~51.9%であり、被告の主張するような労働密度の薄いものではなく、宿日直許可書の有効性を争い違法とされた過去の裁判例の実労働率23.1%~23.7%という値を超える水準である(甲24)。
宿日直中の深夜における患者対応数は、『基監発0331第1号 令和3年3月31日』の不許可事例の2倍は下らない(甲24)。
依頼先からの電話の収受等、本来当直として認められない業務も行わせていた(甲24)。
オ 業務起因性を判断する上での労働時間について
被告は、本件当直時間のうち実作業を伴わない待機時間について、労働時間と主張しているが、以下のとおり失当である。
、労働者が業務に従事することに伴う災害に対して迅速かつ公平な補償を行い、労働者の生活を保護することにある。そのため、における「労働時間」は、時間管理や賃金算定のための「労働時間」とは異なる概念として捉えられており、形式的に使用者の明示的な指揮命令下にあったか否かにかかわらず、実質的に認められれば足りると解される。
前述の厚生労働省通達は、労災補償の判断において、労働時間と同一旨が示されているこれはあくまで判定の迅速化のための一手法に過ぎず、が本来より広であることを否定するものではない。
したがって、たとえ当直許可書が有効であったとしても、病院が即時の対応を求めていたことにより、当該当直時間中の原告は病院の施設内に拘束され、常に業務再開に備えた待機義務を課されていた当該時間は認められる。
原告の当直時間全体は、少なくとも「労働時間」に該当するものであり、被告がこの時間の一部を主張することは、法の趣旨に著しく反する不当なものである。
カ 小括
以上の通り、病院は宿日直許可基準を満たしていなかった。は「許可基準をみたしていない、違法性がある当直勤務は、是認できるものではない。」と述べている。また当直許可書は、使用者の指揮命令下にあることを前提に、労働基準法32条その他同法上の労働時間に関する規定、休憩や休日に関する規定の適用を免れるとしたものと解されるのであるから、当直許可書の許可基準を満たしていなければ、労働時間を間引いて計算することは労働基準法誤りである。さらにの労働時間については、その立法趣旨に照らせば、労働基準法上の労働時間を含み、より広範に認められる原告の宿日直勤務については勤務時間全体を労働時間とすべきであり、被告の主張に理由はない。
2 更衣時間が労働時間に含まれないとする被告の主張に理由がないこと
被告は、病院が第三豊郷ビル406号室以外での更衣を禁止していなかったから、黙示の指示はなかったと主張する。しかし、病院に他に特段更衣するための場所が用意されていたということはない。放射線部の男性職員は、全員この第三豊郷ビル406号室で更衣していたというのが実態であった。また、原告が勤務するためには更衣が必要である。このような実態からすれば、それだけで黙示の指示があったと言うべきであり、被告の主張に理由はない。
3 甲128号証に証拠能力がないとする被告の主張に理由がないこと
甲133号証は、関連訴訟において被告となっている病院が提出した乙2号証である。この乙2号証の平成27年1月の勤務表は甲128号証を元に作成されたものである。原告は、もともと甲128号証のデータを以前から所持していた。それを、訴訟で反論の検討をしていたときデータの中からみつけた。そのため、令和7年3月10日に証拠として提出するように、加工し、表題や図1等の説明を加えて書証化した。そのため、作成日は令和7年3月10日となっているが、そこで引用した勤務表は、平成26年12月頃、病院の担当者が作成したものである。病院は、その後、病院との訴訟において、令和7年4月11日、甲128を元に作成した勤務表を提出している。病院はその作成日は平成26年12月としている。甲133と甲128の印字の分は一致していることから、甲128は、出所不明のものではなく、病院が作成者であることがわかる。証拠能力がないとする被告の主張に理由はない。
4 院内暴力事案の発生が事実であること
甲134号証は、関連訴訟において被告となっている病院が提出した乙4号証である。この看護記録には平成27年7月8日に院内暴力事案によりコードホワイトが発令された事実が記録されている。コードホワイトに原告が対応していることは、超過勤務表や指導記録から既に明らかである(甲4の12頁、甲23の21頁)。また甲134号証から不穏患者は複数名に暴力を振るっており、また「ここへ来い!殴ってやる」との発言があることなどから、いつ怒りの矛先が原告に向くか分からない状況であったと言える。
さらに甲135号証は、関連訴訟において被告となっている病院が提出した、原告の求釈明に対する回答であるが、「さすまたについては、警備員、防災センター職員、事務当直の職種の男性職員が使用することを想定して配置し、対象者にその旨周知しているものであり、原告Xらの医療従事者のは想定されていない。」としている。さすまたの存在を知らされておらず、現着するまで凶器の有無もわからない状態で対応しなければならなかった原告の恐怖感、十分に心理的負荷と言えるものである。
5 施設基準を満たしていない状態でCT業務を継続させられたことが不法行為を強要されたに該当すること。
放射線の漏洩事実は甲7の通りであり、漏洩線量は8μSv/hであった。放射線管理区域はその境界において、1.3mSv/3か月以下であることと厚生労働省によって定められているところ、実際に病院では3.9mSv/3か月の環境にあったと認めることができる。(関連訴訟の被告病院からの疑義によりJIS規格に準拠して再計算した。)厚生労働省はμSv/hで測定した値を500倍することによって3か月あたりの漏洩線量にしてよい旨を公示している。
関連訴訟被告である病院は「装置設置時から設備改修は行っておらず」と自白しているから、本件放射線の漏洩は重大な届出違反である。保険点数については2年に一度改正されるものであるが、現在の保険点数は以下のように取り決められている。
1 CT撮影 イ 64列以上のマルチスライス型の機器による場合 (1) 共同利用施設において行われる場合1,020点 (2) その他の場合1,000点 ロ 16列以上64列未満のマルチスライス型の機器による場合900点 ハ 4列以上16列未満のマルチスライス型の機器による場合750点 ニ イ、ロ又はハ以外の場合560点 2 脳槽CT撮影(造影を含む。)2,300点 (4) 「1」の「イ」について、64 列以上のマルチスライス型の機器であって、別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しない場合には、「ロ」として届け出たうえで、「ロ」を算定すること。
本件のように施設基準(例:漏洩線量1.3 mSv/3か月以内)に適合しておらず、かつ「ロ」としての届出も行っていない場合、(1)(2)の1020点、1000点、900点の算定は不正請求に該当する。「64列以上」装置であっても、施設基準に適合しない場合は1,000点を算定してはならないし、さらに、「ロ」の点数(900点)を算定するためには、「ロ」としての届け出(届出様式25) を保険者に提出しておく必要がある。よって、届出がない限り、「ロ」の900点すら算定できない。「イ」で届け出しているのに、実態は施設基準未達かつ、「ロ」への変更届出も未提出である本件の場合、1020点や1,000点の請求は施設基準違反(不適正請求)であり、900点の請求も無届出のため無資格算定(誤請求・過誤返戻の対象)である。結果として、請求自体が不適正とされ、全額返還の対象+過去遡及調査+行政処分の対象である。
つまり、放射線漏洩の事実を知りながら、CT業務に従事し、保険請求を行わせ続けられたことは、「業務に関連し、不法な行為を強要された」に該当し、その心理的負荷は「強」である。
第3 本件疾病の悪化およびその業務起因性は認められること
1 障害認定を受けたことは本件疾病が悪化したと言えること
ア 産業医が休職判断をしている事実の存在
被告は障害認定の基準が労働への影響や生活状況への影響に重きを置いたものであり、「休職」という労働への影響があった原告の場合、障害認定が不支給から支給に変わったことは悪化があったことの立証にはならないと主張している。 しかし、生活状況への影響が生じたのであれば、それ自体、一つの症状であるので病状の悪化と考えることに矛盾はない。 しかも、休職という事実が存在し、それを医師である産業医が面談を通じて判断しているという事実があるから悪化と言うべきである。
イ 主治医の診療録の書き方は主治医の自由であること
主治医の診療録の記載方法に被告の言うような経験則が存在しているとは言えず、被告の主張に理由はない。この論点について被告は同じ主張を言いを変えて繰り返しているだけである。
ウ 産業医の専門が腎臓内科であることが、その診察内容に医学的根拠がないとは言えないこと
被告は産業医の専門が腎臓内科であるから、産業医の面談での内容は医学的根拠がないと主張している。
産業医となるための要件としては、医師であることに加え、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならないとされている(労働安全衛生法第13条第2項)。
この「労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識」の中には当然にメンタルヘルスに関する内容が含まれるものであり、産業医の専門が腎臓内科であることは、面談内容に医学的根拠がないとする理由にはならない。
また、被告は「原告Xですが、統合失調症の症状が悪化され、最近は勤務を休むことが増えたり、日中の倦怠感の増悪が認められたり、幻聴が聞こえる等の症状が悪化しているとのことで、」という部分のみを強調しているが、この時の面談は原告、産業医、事務職員、技師長である病院関係者Gの四者面談であり、この部分には病院関係者Gが原告の職場での様子を産業医に伝えた部分も含まれている客観的なものである。よって被告の主張に理由はない。
2 原告が作成したカルテの記載を根拠に病院関係者Gとのトラブルがあったとは言えないとする被告の主張に理由がないこと
甲124号証のカルテのメモは、「誰が」=「病院関係者Gが」、「いつ」=「令和2年12月15日」、「どこで」=「電話で」、「何を」=「原告に対して」「なぜ」=「原告が当直明けに朝帰らして欲しいと言ったから」「どのようにして」=「『診断書を盾にとって脅しだね』という言辞を使用した」という形で5W1Hがしっかりと書かれてい
裁判当事者の一方が作成した文書、被告が指摘している一般論であり、具体的に甲124号証のカルテのメモのどの点が誇張されており、どの点が矮小化されているのかという指摘またその立証もされていない被告の主張に理由はない。
また被告は口論が事実であれば、口論があったと直接的に書くのが「通常」であると主張し、それが書かれてないことが「事実が存在しないことの裏付けである」と主張している。まず、口論があったならば口論があったことを直接的に文書に残すことが通常とする経験則は存在しない。表現方法は千差万別である。原告は産業医面談を通じて原告の診断書の内容や原告に易疲労性があることを知っていたにもかかわらず「診断書を盾に取って脅しだね」という文言を使われたとはっきり書いている。
口論の存在は事実であり、被告の主張に理由はない。
3 院内感染拡大事案での精神疾患労災の認定事例は行政通達の存在が感染リスクを低減させたと言えないことの証明になること
ここで争点となっているのは、元々被告が主張した「感染予防や防護対策等の周知が確立されていた時期である」との理由で心理的負荷の強度が「中」に下方修正されると言えるのかどうかである。第3波(令和2年12月から令和3年2月)が問題となっている本件において、上記理由で心理的負荷の強度が「中」になるとすれば、それより後の第4波の事例(甲125号証)でも心理的負荷の強度は「中」となるべきものであるのは当然であるから、第4波において精神疾患労災の認定事案があることは、各種の行政通達の存在は直接的に労働者の感染リスク低減に寄与していなかったこと被告の主張は理由がない。
4 関連訴訟における病院の答弁書を引用して主張することは何ら問題ないこと
ア 待機勤務について
「待機勤務中に被告病院から呼び出しがあった時に30分以内に到着することを求めている」の部分は明確な病院による事実の自白である。待機時間の労働時間性という評価を病院が争っていたとしても、この事実からは労働時間性は認められる。被告の主張の方こそ不当である。
イ 放射線漏洩について
「装置設置時から設備改修は行っておらず」の部分は明確な病院による事実の自白である。放射線漏洩の有無そのものを病院は争っているが、漏洩がある事を前提にすれば設備改修を行っていないことは、原告に心理的負荷を与える出来事である。
ウ 病院関係者Gとの口論について
被告は本訴訟において病院関係者Gとの口論となる前提事実そのものの存在から争っていた。
原告の当該主張は本件において被告が争っていた口論となる前提事実の存在について病院が認めていることを適示したのである。
その後の口論の有無については、すでに原告準備書面(4)で主張した通りでる。
以上