令和6年(行ウ)第13号 療養補償給付不支給処分取消請求事件
令和6年(行ウ)第40号 休業補償給付不支給処分取消請求事件
原 告 原告X
被 告 国(処分行政庁 名古屋東労働基準監督署長)
準備書面(4)
(被告第1、2、3準備書面への反論と補充)
令和7年4月25日
名古屋地方裁判所民事第1部合ホE係 御中
原告訴訟代理人弁護士 岩 井 羊 一
第1 本書面の趣旨
本準備書面では、令和6年5月2日付の被告第1準備書面と令和6年10月30日付の被告第2準備書面と令和7年3月10日付の被告第3準備書面に対し必要な範囲で反論する。また原告の準備書面(1)について補充をする。なお、略語等は、本準備書面で新たに用いるもののほかは、従前の例による。
第2 発病の業務起因性について
1 宿日直勤務について(原告準備書面(1)の補充)
原告の準備書面(1)において、原告は、直日直勤務について、病院が当直許可書の付款に反した運用をしていたことや、労働内容が通常業務そのものであることを指摘し、労働事件であると主張した(原告準備書面(1)55頁以下)。
本準備書面では、労働割合や深夜の労働の頻度などから宿日直勤務を労働時間としないことの違法性を詳述する。
まず宿日直による拘束時間に対する労働割合については評価期間中一番少ない日で23.5%であり、多い日で51.9%である。そして評価期間中の平均は32.6%である(甲24・19頁)。 奈良地方裁判所平成31年4月25日判決(LEX/DB文献番号25500253)も、「宿日直担当医師が宿日直勤務時間中に通常業務に従事した時間(上記〔1〕ないし〔3〕及び〔5〕に従事した時間の合計時間)の割合は全体の約22.3%、通常業務及び正常分娩にかかる処置時間(上記〔1〕ないし〔5〕に従事した時間の合計時間)の割合は全体の約23.1%、通常業務及び正常分娩にその他の業務をも含めた時間(上記〔1〕ないし〔6〕に従事した時間の合計時間)の割合は約23.7%との結果を示していた。したがって、原告らを含めた産婦人科医師らが宿日直勤務において通常業務等に従事していた時間は、宿日直勤務時間全体の23.7%を下らない(乙24の1。なお、平成26年1月1日から同年12月31日までの期間においても、若干の減少傾向が認められるものの、同様の割合であることがうかがわれる。)。」という調査結果を踏まえて「宿日直勤務の全時間帯を通じ、いつでも医療需要に応えるべき立場に置かれ、現に相応の頻度でその需要に応えてきたのであるから、」という理由により「宿日直勤務に従事していた時間全てが労基法上の労働時間に当たるものと評価するのが相当である。」と判示している。
続けて深夜の睡眠の確保という点に着目すると、各月の宿日直の0時から8時30分までに原告が対応した患者の数は1日当たり平均5.7人、実際の患者数は1日あたり1~11人であった。これは基監発0331第1号 令和3年3月31日に示された不許可事例の2倍の数であることから当直許可基準の夜間十分な睡眠が確保できることという部分を満たしていないと言える(甲24の20頁21頁)。
また基監発第1128001号平成14年11月28日(甲70)「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化の当面の対応について」は、具体的に集団指導の対象を明示している。そこには指導対象事業所から除外することとして以下の3つの具体例が示されている。
a 1か月における宿日直勤務中に救急患者に医療行為を行った日数が8日ないし10日である場合において、自主点検表4(6)の救急患者の対応に要した時間が最も多い日について勤務医及び看護師ともに3時間以内のもの
b 1か月における宿日直勤務中に救急患者に医療行為を行った日数が11日ないし15日である場合において、自主点検表4(6)の救急患者の対応に要した時間が最も多い日について勤務医及び看護師ともに2時間以内のもの
c 1か月における宿日直勤務中に救急患者に医療行為を行った日数が16日以上である場合において、自主点検表4(6)の救急患者の対応に要した時間が最も多い日について勤務医及び看護師ともに1時間以内のもの
つまり上記a、b、cに該当しない勤務状態は違法状態であり、集団指導するという方針を国が有していたのである(甲70)。
そこで原告の病院の勤務状況を鑑みると、平成31年4月のものではあるが、当直日報では30日中30日救急患者に対応していることがわかる(甲25)。
この毎日救急患者への対応があった状況というのは平成27年当時も同じであり、平成27年の評価期間中における原告の宿日直の実労働時間は、最も短い時でも3時間10分である。(甲24の19頁図17)
これは先のa、b、cのいずれも満たしておらず違法状態である(甲70の通達によれば、集団指導を実施する対象となる)ことは明らかである。
以上、原告の準備書面(1)で述べた内容に加え、労働割合や深夜の睡眠状況などの観点からも名古屋東労働基準監督署長が、平成5年11月25日付けで、病院に対して与えていた断続的な宿直又は日直勤務の許可(甲20)は、本来、取り消されるべきものであった。
このような労働実態にあった原告の宿日直勤務については、勤務時間の全体が労働基準法上の労働時間に当たるというべきである。
2 終業時刻(被告第1準備書面48頁)
準備書面(1)63頁で主張したように、原告は、撮影終了後も再起動業務を命じられており、それが完了するまで帰宅することができなかった。このことは「救急外来の体制強化に伴い、再起動のタイミングが取りづらく、片付けや終業点検が終わっているにもかかわらず再起動のためだけに残らなければいけない場合があり負担になっている。」と原告が平成27年5月に放射線部技師長に提出した意見具申書にも記載されている(甲126)。
このことから原告は、評価期間当時には最終撮影終了後にも再起動業務のために残っていたことがわかる。よってタイムカードの打刻時刻に更衣の5分を足した時間が終業時刻であり、被告の主張には理由がない。
3 更衣時間の労働時間性(第2準備書面9、10頁)
被告は、更衣場所が就業規則で定められていないことから更衣の時間は指揮命令下になく労働時間でない旨主張する。
甲127は第三豊郷ビルの406号室と407号室の写真であるが、406号室にはクリーニングの返却場所(ハンガーラック)と回収ボックス(緑色の箱)が置かれており、病院の職員が制服を自宅等に持ち出すことはないことがわかる。また406号室のその他の写真を見ても、この部屋は更衣室としての機能しか有していないことがわかる。よって職員はこの部屋で着替えることになっていた。更衣をこの部屋で行うという黙示の指示があったと評価できる。更衣時間は指揮命令下にある労働準備行為といえ、労働時間である。
4 待機勤務について(原告準備書面(1)の補充)
甲128号証にあるように、平成27年1月から平成27年3月の勤務表が見つかったので、原告は、平成27年1月18日~19日の待機勤務を追加し、また甲23に記載漏れのあった同年5月9日~10日の待機勤務を追加し、原告準備書面(1)54頁の表を以下のように訂正する。また同年2月14日~15日に関して勤務表上は待機勤務ではないが、甲23の超過勤務表より2回の緊急出動の記録が残っているので、病院関係者Jと勤務を交代している。よって出動回数についても評価期間中19回中9回+1回となる。
表1 待機勤務日と実労働時間
| 待機日 | 勤務時間1 | 勤務時間2 |
|---|---|---|
| 1月1日~1月2日 | 23:00~0:00 | 6:20~7:20 |
| 1月18日~1月19日 | ||
| 1月30日~1月31日 | ||
| 1月31日(当番外) | 14:15~15:15 | |
| 2月3日~2月4日 | ||
| 2月11日~2月12日 | 10:00~11:00 | 12:45~18:20(2件連続) |
| 2月14日~2月15日 | 16:10~16:30 | 19:30~20:30 |
| 2月21日~2月22日 | ||
| 3月14日~3月15日 | 20:00~21:00 | 3:00~4:45 |
| 3月18日~3月19日 | ||
| 3月27日~3月28日 | ||
| 4月8日~4月9日 | ||
| 4月18日~4月19日 | ||
| 5月9日~5月10日 | ||
| 5月27日~5月28日 | ||
| 5月30日~5月31日 | ||
| 6月6日~6月7日 | ||
| 6月11日~6月12日 | 21:45~22:45 | |
| 6月19日~6月20日 | ||
| 7月3日~7月4日 | 1:40~2:20 | |
| 7月16日~7月17日 |
5 労働時間アナライザの集計による原告の時間外労働(原告準備書面(1)の補充)
甲128により、原告は、平成27年1月18日から19日に緊急出動のない待機勤務を行っていること、および甲23より平成27年5月9日から10日に緊急出動のない待機勤務を行っていることがわかる。そこで、原告準備書面(2)の労働時間アナライザによる労働時間の集計表を一部訂正する。なお2か月前については転記間違いの修正である。(赤字が訂正箇所)修正した待機時間を含む労働時間アナライザは甲129として提出する。
表2 労働時間アナライザによる労働時間
| 待機勤務を含まず | 待機勤務を含む | |
|---|---|---|
| 6か月前 | 96:58 | 156:06 |
| 5か月前 | 117:43 | 158:47 |
| 4か月前 | 87:13 | 127:12 |
| 3か月前 | 54:39 | 90:21 |
| 2か月前 | 92:58 | 158:06 |
| 1か月前 | 89:15 | 111:33 |
6 連続勤務について(原告準備書面(1)の補充)
原告準備書面(1)65頁では平成27年1月5日~1月17日の間、連続勤務があったと主張した。
しかしながら、甲128に示す通り同年1月18日も待機勤務を行っている。同日に緊急出動はしていないが、待機勤務の精神的負荷は完全な休日とは異なるものである。勤務であることは認められるべきである。そうすると、同年1月19日までが連続勤務である。
7 複数名で担当していた業務が一人になったについて(被告第2準備書面11頁)
被告は、病院関係者Bの左腕の可動範囲に言及し、病院関係者Bが一人前の業務を行っていなかったかのように主張し、「手伝っていたにすぎない」という主張を正当化しようとしている。
障害者雇用促進法では週に30時間以上働く身体障害者を1人の雇用として算定することとなっている。病院関係者Bは1日7時間、週5回勤務であり、週当たり35時間の労働をしていた。つまり1人の労働者として評価するのが適切である。
被告は左手の可動範囲、すなわち障害に着目して1人として数えることができないとしているが、障害者雇用促進法の障害者雇用率制度の趣旨に照らせば、それは不適切である。
被告の主張する病院関係者Bの左手の可動範囲を理由に「手伝っていたにすぎない」という結論を導くことはできない。被告の主張に理由はない。
第3 本件疾病の悪化およびその業務起因性は認められること(被告第3準備書面の3から5頁)
1 本件疾病が悪化したと認められること
原告は、令和3年2月8日、障害年金の請求を行った。しかし、令和3年5月25日に不支給決定を受けている。この不支給決定通知書には「なお、今後、障害の状態が悪化した場合は、65歳に達する日の前日(65歳の誕生日の前々日)までに改めて請求することができます。」と記されていた(甲123・2枚目)。
原告は、令和3年6月上旬に、再度、障害年金の請求を行い、令和3年10月7日に障害等級2級16号と認められた(甲123・3枚目)。
このことから被告は、障害年金の判断において、原告の本件疾病に関して、令和3年2月中旬から6月上旬までの間に障害の状態が悪化したと認めている。
原告の悪化時期の主張はあくまで令和3年3月中旬であるが、悪化の時期が令和3年2月中旬から6月上旬のどこであったとしても、院内感染拡大事案や上司とのトラブルは悪化時期の半年以内の出来事として評価期間に含まれる。
被告は、悪化がなかったと主張しているが、すでに被告は障害年金手続きにおいて、悪化を認めているのであるから、悪化を否定する主張には理由がない。
2 本件疾病の悪化とその業務起因性について
ア 「上司とのトラブルがあった」について(被告第2準備書面16、17頁)
令和2年12月15日記載の原告自身のカルテのメモ欄には以下のような記述がある。
「また12月15日、本人は休暇を返上して出勤、当直も行ったが体調悪化を懸念して当直明けに朝返してほしい旨を伝えた。主治医より直明け勤務に対して制限がかかっていることを伝えた際には、G技師長より『診断書を盾にとって、おどしだね』と言われる。産業医との面談を通じて易疲労性があることは技師長も了承済みのはずである。」(甲124)
これは原告自身が当時、当日の病院関係者Gとの口論の内容の一部を後日修正することができない電子カルテにメモしたものである。
被告は病院関係者Gとの口論を示す客観的な裏付けがない旨主張するが、裏付けは存在する。被告の主張には理由がない。
イ 「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」について(被告第3準備書面の5から6頁)
被告は、第3波(令和2年12月1日ないし令和3年2月28日)の時期は、行政による感染予防や防護対策等の周知が確立されていた時期であることを理由に、この時期の原告の受けた心理的負荷が「中」に留まると主張する。
そもそも、乙13号証4ページにある「行政による感染予防や防護対策等の周知が確立されていた時期である」という一文は一医師の私見である。当時のクラスター発生時における医療機関での対応策など、当該状況を踏まえたものではない。被告の主張を裏付ける根拠としては不十分である。
甲125号証は朝日新聞デジタルの令和5年8月18日の記事である。ここには、令和3年(2021年)4月の第4波での院内感染拡大事案での精神疾患労災の認定事例が報じられている。
被告の言うように第3波の時点で「行政による感染予防や防護対策等の周知が確立されていた時期である」という理由で心理的負荷が「中」となるのであれば、第4波の労災認定事例があることは矛盾である。
被告の主張に理由はない。
第4 結語
以上のとおり、本件各処分は違法であることは明らかであるから、速やかに取り消されるべきである。
以上