令和6年(行ウ)第13号 療養補償給付不支給処分取消請求事件
令和6年(行ウ)第40号 休業補償給付不支給処分取消請求事件
原 告 原告X
被 告 国(処分行政庁 名古屋東労働基準監督署長)
準備書面(3)
(被告第2準備書面への反論)
令和6年12月25日
名古屋地方裁判所民事第1部合ホE係 御中
原告訴訟代理人弁護士 岩 井 羊 一
第1 本書面の趣旨
本準備書面では、令和6年10月30日付の被告第2準備書面に対し必要な範囲で反論する。なお、略語等は、本準備書面で新たに用いるもののほかは、従前の例による。
第2 発病の業務起因性について
1 パワーハラスメントについて(第2準備書面7頁)
被告は、病院関係者Aらが原告に対し人格や人間性を否定するような発言をしていたことを裏付ける客観的な証拠が見当たらないと主張する。しかし、この点については、原告準備書面(1)20頁以下で述べた通り「新人でもできている」「将来部下をつけることはできない」「部会も下のものが出た方がマシ」「不明だと思わない感覚がある。自分の価値で判断があまりにも多い。感覚がにすい」など指導記録に文書として残っている証拠も多く存在する(甲4)。よって被告の主張に理由はない。
また被告は会話の記録が直接的に原告に対するパワーハラスメントを目撃した旨の証言でないことなどを理由に証拠能力がない旨主張する。しかしながら原告は一貫して病院関係者Aのパワーハラスメントを主張しており、その内容に沿った、病院関係者C、病院関係者H、病院関係者Nの体験談が証言として得られているので証拠としては十分である。よって被告の主張には理由がない。
2 達成困難なノルマが課せられたことについて(第2準備書面8頁)
被告は、概ねノルマが達成できていたのであるから達成困難なノルマではないと主張する。認定基準における「達成困難なノルマが課せられた・対応した・達成できなかった」の項目は「達成は容易ではないものの、客観的にみて、努力すれば達成可能であるノルマが課され、この達成に向けた業務を行った」とある。
被告の主張は「客観的」とは言えず「主観的」というべきである。本件の場合「客観的」とは、全国の撮影平均数などと比較して、原告に課せられていたノルマがどのようであったかということであり、このことは被告の第1準備書面にもある「平均人基準説」にも合致する(被告第1準備書面15頁ないし17頁)。原告が概ねノルマが達成できていたかということと、容易ではない、努力すれば達成可能、ということは両立することである。被告の主張に理由はない。
3 労働時間について(第2準備書面9頁)
⑴ 更衣の時間について
被告は、着替えを更衣室で更衣することを定めていないから更衣が指揮命令下にないと主張する。
しかし、服務規律に制服に着替えることが定められている以上、服務規律に更衣場所の明記がないからといって、制服への更衣が病院の指揮命令下でないとは言えない。
また制服は、病院が契約しているクリーニング業者によってクリーニングされ、その制服の返却場所は更衣室であった。自宅等に制服を持ち帰ることが基本的にないのであるから、更衣室で更衣をする旨の黙示的な指示があったと評価できるというべきである。よって制服への更衣は指揮命令下にあったといえ、労働時間に該当する。
⑵ 休憩時間について
被告は甲40号証を見ても原告の主張する削減された労働時間の根拠が不明であると主張する。
以下根拠について説明する。甲40号証には甲14号証ないし甲16号証の検査実施記録の実施時刻を参照している旨が明記されている。具体的に例をあげるならば平成27年1月13日の短縮された時間が16分である根拠は12:43に原告が実施した検査のあとは交代要員として病院関係者Bが4件検査を行っている。このことが甲14号証の2015年(平成27年)1月13日の欄を見るとわかる。その後原告が行った検査が終了したのは13:17である(同じく甲14号証の同日の欄)。この13:17に終了した検査は単純検査であるため(「単純」検査であることは、甲93の29のデータの同日同時刻の欄をみれば確認できる)、13:12に検査を開始していると推定される。よってこの日の原告の休憩時間は29分であり、16分短縮されている。平成27年1月19日などは45分短縮(休憩がなかった)と記載しているが、これについては12:04に原告が検査を終えた後(甲14号証の2015年(平成27年)1月19日の欄)、交代要員として病院関係者Qが来ているものの原告は業務を継続している旨が実施記録からうかがわれる(甲14号証の同日12:17以降の欄は記入者が病院関係者Qとなっているが撮影者は原告となっていることから原告が業務を継続していることがうかがわれる)ことから、このような記載の日は休憩がないといえる。このような算定方法によって、甲14号証から16号証、甲93号証の各枝番の該当日時を参照すれば原告の休憩時間の実態が分かる。そして、この短縮された休憩時間を特定した結果が甲40号証である。よって原告主張する短縮された休憩時間は原告準備書面(1)で記載した通りである。
被告は病院関係者Jの「よほどのことがない限り、きちんと取れており、きちんと休憩していたと思います。原告は休憩室で休憩しており、休憩室で寝ていました」「休憩室で休憩していれば電話対応をすることもなく、原告には電話番をさせていませんでした。」(乙1・359頁)という供述に依拠して休憩時間があったと主張している。
しかし、原告が休憩室で休憩するようになったのは発病の影響で疲れやすくなった平成28年9月頃からであり、病院関係者Jの供述は評価期間中にあった事実とは言えない。この証言の聴取自体が令和3年2月であることから、病院関係者Jの記憶の風化が起きて、平成28年9月以降の原告の様子をずっとそうだったかのように説明した、と考えるのが妥当である。病院関係者Jは、休憩時間に関して「日勤の休憩は45分。当直の休憩は60分間でした」と答えている。原告のミスの内容について「造影剤を使わない検査なのに使ってしまったり」といっている。これらの証言は、証拠を見比べれば事実と異なることが容易にわかるものである。このように、病院関係者Jの証言の信用性は低い。病院関係者Jの供述に基づく被告の主張に理由はない。
4 2週間以上の連続勤務について(第2準備書面10頁)
被告は、あらかじめ予定されていたシフトに対応するもので労働密度が低い、と主張する。
原告準備書面(1)でも主張した通り、「2週間以上に渡って連続勤務を行った」の項目はあくまで労働者が休日をとることなく業務に従事したか否かを問うものであり、「休日に対応しなければならない業務が生じた等の事情により」というのは例示にすぎないと解するべきである。
さらに、病院は本来、夜間休日は休診日であるので、休診日に病院を訪れる急患らは正に「休日に対応しなければならない業務が生じた等の事情により」と言うことができる。労働密度についても、半日勤務は特に労働密度が低いとも言えない。平成27年1月11日ないし12日の宿日直業務については24時間中11時間10分の実労働がある。このことからも労働密度が低いとは言えない。被告の主張に理由はない。
5 複数名で担当していた業務が一人になったについて(第2準備書面11頁)
被告は、病院関係者Bの左腕の可動範囲に言及し、病院関係者Bが一人前の業務を行っていなかったかのように主張し、「手伝っていたにすぎない」という主張を正当化しようとしている。
しかし、病院関係者Bが64列CTで担当していた画像処理業務は、右手でパソコンのマウスが扱えれば十分用が足りており、実際に病院関係者Bは一人前の業務を行っていた。CT業務において実際に左手を使う様な機会はストレッチャーの患者の検査台への移乗程度に限定される。
二人で行った業務といえるか否かは、原告と病院関係者Bが共に業務に従事した時間によって客観的に判断されるべきである。原告準備書面(1)で主張した通り、原告と病院関係者Bが共に業務に従事した時間は一日当たり5時間程度であるから、病院関係者Bは原告と共に64列CTを担当していたと言える。被告の主張に理由はない。
6 顧客や取引先から対応困難な注文や要求等を受けたについて(第2準備書面12頁)
被告は、平成27年1月19日の医師からのクレームについて、「飽くまでも職場の同僚から指摘を受けたものに過ぎないから、本件認定規準別表1の具体的出来事の項目12には当たらない」と主張する。
原告準備書面(1)でも主張した通り、医師と診療放射線技師は独立した専門家同士であり、また免許の範囲からも同僚と呼べるような同格の存在ではないことは明らかであるから被告の主張に理由はない。
被告は平成27年5月19日、未受付のままCTの前で30分以上待たされた患者が激怒したという事例があったこと。同月22日、クリニックから依頼されたCDを焼き間違えたことの責任を取らされたことについて、出来事を裏付ける客観的な証拠がないと主張する。
原告準備書面(1)でも主張した通り、平成27年5月19日及び同月22日の出来事については甲28号証の2頁に引用してある日報や指導記録があり、裏付ける証拠があるので被告の主張に理由はない。
7 感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事したについて(第2準備書面13頁)
被告は、コードホワイト対応が重大な危険を生じさせるものとまではいえず、コードホワイトへの対応自体も緊急事態発生マニュアルに定められており、原告を含む3名で対応を行ったということを理由に心理的負荷の強度が「弱」にとどまると主張する。 原告準備書面(1)でも主張した通り、原告は現着するまで凶器の有無もわからなかったのであり、さすまたなども防護用品もなく体一つで現場に駆け付けている。また実際に、原告は、駆けつけたときに、顔面を殴られて氷水で患部を冷やす治療を受けている職員を見た。そのときに、暴力振るった人もまだ現場にいて、椅子を蹴ったり、カウンターをたたいたりして暴れていた。十分に危険な状況であったと言える。
また被告はコードホワイトへの対応自体も緊急事態発生マニュアルに定められていた旨主張するが、そのようなマニュアルは存在しない。コードホワイト時には男性職員は現場に駆け付けるようにと口頭で聞いていたのみである。原告が提出した甲88号証は他院のものであり、コードホワイトの隠語の意味を説明しているに過ぎない。よって被告の主張に理由はない。
8 業務に関連し違法な行為を強制されたについて
被告は病院関係者Lの証言内容では病院関係者Aの違法行為の指示があったことを裏付けることができない旨主張する。
しかしながら、本件不正会計のあったことは事実なので、もし病院関係者Aの違法行為の指示がなかったのであれば、本件不正会計は原告が自らの意志で行ったということになるが、被告から本件不正会計を原告の意志で行ったことを示す証拠は提出されていない。また原告準備書面(1)で主張した通り、本件不正会計で利益を得るのは病院であり、原告には一切のメリットがない状況であることや、原告は病院関係者Aの死後に不正会計について警察に相談に行ったり、内部告発をしたりしているのであるから、原告が自らの意志で不正会計を行ったはずがない。違法行為の指示があったと推認することは十分できる。
よって被告の主張に理由はない。
第3 本件疾病の悪化およびその業務起因性は認められること
1 本件疾病が悪化したと認められること
ア 幻視について
被告は、幻視の症状が客観的な検査で把握できないことを理由に悪化の判断には治療内容を重視すべきである旨主張する。
そもそも多くの精神疾患において客観的な検査で症状が把握できることは少なく、患者本人の主訴などをもとに医師が病状を判断していくことが通常である。
イ 投薬内容について
被告はレキサルティの一般的な処方量を1日1回2錠(2mg)であると説明したうえで、原告の服用しているレキサルティが1日1mgであり、投薬内容に変化がないと主張している。
主治医は症状に変化があると、服薬量の増量を提案するものの、原告自らが副作用の倦怠感や不眠が強く出ることを理由に断っている。幻視の訴えがあった令和3年3月19日にも増量の提案は口頭であったものの原告が断っていた。増薬がないことが即ち悪化がなかったとは言えない。被告の主張に理由はない。
ウ 受診状況について
被告は、主治医が原告に対し、休業の必要性を示す記載をしていないと指摘する。しかし、主治医は幻視の訴えに対して、服薬量の増量の提案はしたのであり、一定の危機感は抱いていたと言える。診療録において症状の悪化による休業の必要性を示す記載がないことは、甲105号証の令和2年12月8日に主治医が産業医に宛てた診療情報提供書に「職場により通常勤務内容に差があるとは存じますが、現在のそちらでの職務遂行能力を鑑み。許容範囲内の職務が全うできない、または、許容範囲内の職務で体調が悪化するようでしたら、通常業務は困難であると考えます。残業や休日出勤などについては必要最小限が望ましいと考えます。」とあるように、休業のタイミングや必要性の判断を産業医や職場に委ねているからである。主治医の診療録に休業のタイミングや必要性の判断の記載がないことはなんら不自然なことではない。
エ 休業に至る経過
被告は、原告が休業したのは原告の希望に対して対応したものに過ぎず、医学的根拠はないと主張する。
令和3年3月31日の原告と病院の院長及び事務長との会談記録には「やっぱりある程度ちょっと例えば休息をとりつつ体の回復というところに、まず今の状態のまま続けるのは若干リスクかなという気がするので」とあり、これは明らかに病院側からの休職の打診であると言える。原告はこの打診に対して同意した。甲120号証の会話の趣旨からも、病院関係者Gも令和3年4月6日時点で病院側からの休職の打診に対して原告が同意したという認識でいたことがわかる。令和3年4月9日に産業医T、病院関係者G、原告、職員課職員の4名で、先の休職打診への同意に基づき、休職を前提とした産業医面談が行われているが、同日付の診療情報提供書にあるように「御本人より(中略)休職にての療養を希望されました」と記載のあるような事実はない。また被告は原告が自ら休職を希望した発言という証拠はないのであるから、院長の発言と産業医の発言を結びつけるのは論理の飛躍であると言える。
そして主治医が休業の必要性についてなんら判断を下していないことは、甲105号証の令和2年12月8日に主治医が産業医に宛てた診療情報提供書からわかるように休業のタイミングや必要性の判断を産業医や職場側に委ねているからである。
オ 小括
以上の通り、投薬内容に変化がないことをもって直ちに悪化がなかったということはできず、また主治医は休業の判断を、産業医をはじめとした職場側に委ねていた経緯から、主治医による休業の診断や指示がなかったとしても不自然ではなく、さらに甲120号証の病院関係者Gの発言「ちょっと本当に最近またちょっと朝来れないケースも増えてきているので」「ひどい。多くなって、この3月すごく多かったよね。」「ちょっと体えらそうなときも多いし、あいにくね。どんどんね。表情も結構暗い時多いから、まぁちょっとほんとにしっかり治さないと、どんどん潰れていく気も僕もするんで」からわかるように、職場側で悪化を看取している事実からも被告の主張に理由はないというべきである。
2 本件疾病の悪化とその業務起因性について
ア 「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」について
被告は、第3波(令和2年12月1日ないし令和3年2月28日)の時期は、行政による感染予防や防護対策等の周知が確立されていた時期であることを理由に、この時期の原告の受けた心理的負荷が「中」に留まると主張する。
そもそも、乙13号証4ページにある「行政による感染予防や防護対策等の周知が確立されていた時期である」という一文は一医師の私見である。当時のクラスター発生時における医療機関での対応策など、当該状況を踏まえたものではない。被告の主張を裏付ける根拠としては不十分である。
さらに、甲101号証ないし甲104号証に示した各種対応マニュアルの更新日からしても現場には院内クラスター発生の当初より、院内クラスターを前提としたような確立された対応策がなかったことがわかる。そのために院内クラスターが発生したともいえる。また、この時期は、まだ原告を含め医療従事者は予防接種を受けていない。医療従事者が優先的に予防接種を受けることができたのは、令和3年2月頃からであり、甲121号証に示す通り、原告の初回のワクチン接種日は令和3年3月11日である。まだ行政による感染予防や防護対策等の周知が確立された時期とは言えない。原告の当時の状況は、認定基準の「強」になる例として記載されている「・ 新興感染症の感染の危険性が高い業務等に急遽従事することとなり、防護対策も試行錯誤しながら実施する中で、施設内における感染等の被害拡大も生じ、死の恐怖等を感じつつ業務を継続した」にあたる。その心理的負荷は「強」である。よって被告の主張に理由はない。
3 まとめ
被告の主張にはいずれも理由がないことから、原告の本件疾病の悪化については業務による強い心理的負荷があったためと認めることができる。
第4 結語
以上のとおり、本件各処分は違法であることは明らかであるから、速やかに取り消されるべきである。