令和6年(行ウ)第13号 療養補償給付不支給処分取消請求事件
令和6年(行ウ)第40号 休業補償給付不支給処分取消請求事件
原 告 原告X
被 告 国(処分行政庁 名古屋東労働基準監督署長)
準備書面(2)
(原告準備書面(1)の補充)
令和6年8月28日
名古屋地方裁判所民事第1部合ホE係 御中
原告訴訟代理人弁護士 岩 井 羊 一
第1 本書面の趣旨
本準備書面では、令和6年7月8日の弁論準備手続きにおいての裁判所からの指摘に応じて、パワーハラスメントが原告に対してどのような心理的負荷を与えたかについて説明し、主張を補充する。あわせて、労働時間の主張についても補充する。さらに、精神障害の悪化の主張の位置づけについても補充して主張する。
第2 パワーハラスメントについての原告の主張
1 パワーハラスメントと心理的負荷の関係について
(1) パワーハラスメントの具体的内容
原告準備書面⑴で述べた、病院関係者AおよびJによる以下のような言動が、パワーハラスメントに該当する。
ア 「馬鹿かお前は」「たわけか」「アホ」などの人格を否定する発言(原告準備書面⑴20頁)
イ 巻き舌での威嚇的な「あぁん?」という発言(同20頁)
ウ 「何年目だ」「新人でもできている」といった侮辱的な発言(同21頁)
エ 指導場所や指導時間における不合理な扱い(同19頁)
オ 業務外の内容に対する叱責(同21頁)
カ ミスの翌日に朝会議での報告と謝罪の強要(同22頁)
キ 「担当を外すことも検討する」「将来部下を付けることはできない」「部会も下のもの が出た方がマシ」「お前は感覚が普通の人と違う。お前の価値観は普通の人の価値観からずれている」などの侮辱的、人格否定的な発言(同22頁)
ク 放射線漏れのある鉛ガラスの改修を拒否されたこと(同23頁)
(2) 心理的負荷の内容と影響
原告はこれらの言動により、以下のような心理的負荷を受けた。
ア 自尊心の喪失
人格を否定される発言や侮辱的な言動により、自己肯定感が著しく低下した。特に、頻繁に「馬鹿かお前は」「アホ」などと呼ばれることで、原告は自身の価値を疑うようになり、自尊心が大きく傷つけられた。
イ 精神的ストレスの増加
巻き舌で威嚇される「あぁん?」という発言や、長時間の立ったままの指導など、威圧的な環境での指導は、原告に継続的な精神的ストレスを与えた。これにより、仕事に対する意欲や集中力が低下し、精神的な疲労感が増大した。
ウ 業務遂行能力の低下
業務外の内容に対する叱責や、他の労働者の面前でのミスの報告と謝罪の強要など、不合理な扱いは、原告の業務遂行能力を低下させた。これにより、さらにミスが増え、その結果としてさらなる叱責を受けるという悪循環が生じた。
エ 職場環境の悪化
原告は、職場環境の悪化により、職場に対する恐怖感や、だれかから病院関係者Aに自分の一挙手一投足を告げられるのではないかという不安感を抱くようになった。これにより、職場での人間関係が悪化し、孤立感が強まった。
オ 健康への悪影響
長期にわたるパワーハラスメントによる心理的負荷により、原告は心身の健康を害した。具体的には、ストレスによる小腸閉塞などの身体的な症状が現れ、最終的には精神の健康も損なわれるに至った。
(3) 小括
以上のように、病院関係者Aおよび病院関係者Jによるパワーハラスメントは、原告に対して強い心理的負荷となり、原告の精神的および身体的な健康に深刻な影響を及ぼした。これにより、業務遂行能力が低下した。病院関係者Aおよび病院関係者Jによるパワーハラスメントが原告の精神障害の発病に直接的な原因となったことは疑いの余地がない。
(4) 認定基準(甲67)への当てはめ
認定基準別表1の具体的出来事表の22は「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」とあり、心理的負荷を「強」の例として「人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃 」「必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃」があげられ、これらの態様のパワーハラスメントが、「反復・継続するなどして執拗に受けた」場合が挙げられている。病院関係者A及びJによるパワーハラスメントは、原告準備書面⑴19頁以下で指摘し、上記にもまとめたように、複数存在しており、「反復継続している。」「執拗である」と評価するべきである。
被告は、病院関係者Aから叱責があったことは認めながら、それが、原告に過誤が多かったこと等を理由に業務指導の範囲内であると主張し、パワーハラスメントであること自体を否定する。しかし、甲4で原告が調査し、説明しており、そのことを準備書面⑴で主張したとおり、病院関係者A及び病院関係者Jの言動は、その言葉自体「馬鹿かお前は」「たわけか」「アホ」などの人格を否定する発言が含まれているほか、その指導の態様、内容は社会通念に照らし許容される範囲を超えている。パワーハラスメントに該当し、しかも、それが反復・継続していたのである。その心理的負荷の強度は、被告が言うような「弱」などということはできず、パワーハラスメントは心理的負荷が「強」となるような強さであった。
(5) 裁判例(宮﨑地裁令和6年3月21日判決)
ア 過誤が多いことで叱責が正当化されるわけではないこと
宮﨑地裁令和6年3月21日判決(TKC LEX/DB25599359・甲118、労働法ジャーナル148号12頁)は、原告と同様の放射線技師が、パワーハラスメント等によって精神疾患を発症、悪化したとして、公務外認定の取消を求めた事案である。判決は、次のように指摘している。
「確かに、原告の唯一の上司として指導を担っていたCは、当初、原告に対して丁寧に指導していたのであり(上記認定事実(3))、放射線技師の業務が患者の被曝を伴う医療行為であって不要な被曝は避けなければならないにもかかわらず、原告は知識や経験の不足からだけではないケアレスミスも繰り返していて、Cの指導が功を奏していない状況であったという経緯に照らせば、上記アで認定したCの言動がおよそ業務上の目的を欠いたものであったとはいえない。
しかしながら、その態様や方法については、日々、否定的な内容を大声で繰り返し、時にはそれが長時間に渡ることもあり、新人職員に対する期待や放射線技師が二人しかいないことも相まって徐々に厳しい態様となっていったと認められるのであり、Cが原告の唯一の指導者であったという両者の関係性や、そうであっても一般X線撮影についてのマニュアルが備付けられておらず(上記認定事実(5))、Cからの指導を受け経験を積みながら撮影の知識と技術を習得しなければならなかった(上記認定事実(8))職場環境を前提とすれば、Cの指導は業務上の目的を超えて必要以上に威圧的なものであり、そのような状況が継続することによって、原告が強い精神的負荷を感じる状況にあったと認定できる。」
この判決は、ケアレスミスを繰り返している場合であっても、その指導の態様や方法よっては、業務上の目的を超えていると評価され、強い心理的負荷をうける状況にあったことを認めている。本件において、被告は、原告に過誤が多かったこと等を理由に業務指導の範囲内である旨主張しているが、指導の態様によっては許されないことは当然である。
イ パワーハラスメントに当たることを否定したり知らないと述べた者がいたからと言ってパワーハラスメントは否定できない。
また、この判決は、「B病院の職員には、Cの原告に対する指導がパワーハラスメントに当たることを否定したり知らないと述べたりする者も多数存在する(乙1、9~13)。」と認定しながら、「しかし、それらの者は供述時点でもCと同僚であって、Cとの関係性を維持する必要があることに加え、原告がミスを繰り返してCに迷惑をかけていたという経緯を知っているのであるから、Cに有利に供述する可能性を否定できない。むしろ、上記認定事実(7)、(18)、(19)のとおり、Cの同僚や健康診断の受診者が原告の主張に沿う供述等をしており、H事務長もCの原告に対する言動については注意が必要であると思っていた旨発言していること、平成29年1月頃の発症以降の出来事であるが、上記認定事実(20)、(22)のとおり、同年6月及び同年7月にも長時間にわたりCが原告に大声で注意したり怒鳴ったりしていたことの裏付けがあることを考慮すると、同年1月頃までの時期において、上記のとおり認定することができるというべきである。」と判示し、「パワーハラスメントに当たることを否定したり知らないと述べたりする者も多数存在」することだけで、直ちにパワーハラスメントを否定する理由にはならないことも示している。
本件では、原告が、詳細に指導記録を引用したり、病院関係者に聞き取りをして甲4をまとめている。被告は「病院関係者からは、A技師長は、乱暴な言葉を使う人ではなく、「怒る」というよりは、どうしてミスをしたのか、どうしたら防げるのか、今後の対応について指導してくれる人である(乙第1号証350及び351ページ)などと評されている。」と指摘しているが(被告第1準備書面58頁から59頁)、このような病院関係者の指摘があったとしても、パワーハラスメントを否定する理由にはならない。
第3 労働時間について
1 原告の主張する労働時間について
原告が、準備書面⑴63頁の表4で修正して主張した時間外労働時間の根拠となるのは甲第114号証(待機勤務を含まず)、甲第115号証(待機勤務を含む)として提出する。
なお、これを行政の規準(1か月を30日とする)によって、労働時間アナライザに入力した結果を甲第116号証の1(労働時間集計表)、甲第116号証の2(長時間労働(出来事)確認表)甲116の3(恒常的長時間労働確認表)(いずれも待機勤務を含まない場合)、甲第117号証の1(労働時間集計表)、甲第117号証の2(長時間労働(出来事)確認表)甲117の3(恒常的長時間労働確認表)(いずれも待機勤務を含む場合)として提出する。
2 労働時間アナライザの記載方法の特記事項
緊急登院による労働時間について
待機勤務を含まない場合において、緊急当院による労働時間があった場合については、例えば当該日の日勤が8:00~17:15の場合において、出勤前に緊急登院して1時間の実労働がある場合は、7:00~17:15のように記載している。
また当該日の日勤が8:00~17:15の場合において、出勤後に緊急登院して1時間の実労働がある場合は、8:00~18:15のように記載している。
宿日直による労働時間について
例えば月曜日の8:00に出勤し、翌火曜日の13:00に退勤した場合
月曜日8:00~24:00と火曜日0:00~13:00と記載している。
3 労働時間アナライザの集計による原告の時間外労働
被告と同様に7月12日を基準に計算すると下記の通りになる(甲116の1、甲117の1)
| 待機勤務を含まず | 待機勤務を含む | |
|---|---|---|
| 6か月前 | 96:58 | 132:59 |
| 5か月前 | 117:43 | 158:47 |
| 4か月前 | 87:13 | 127:12 |
| 3か月前 | 54:39 | 72:04 |
| 2か月前 | 92:58 | 150:06 |
| 1か月前 | 89:15 | 111:33 |
第4 準備書面⑴83頁以下の主張の位置づけについて
原告は、準備書面⑴の83頁以下で、原告が令和3年5月1日から休職しているが、これは、原告の既に発症している統合失調症が、令和3年3月中旬に悪化したことによるものであると主張した。令和2年12月中旬頃に、新型コロナウイルス感染症の院内クラスターが発生し、原告は、そのなかで勤務していた。このことは、認定基準別表1「業務による心理的負荷評価表」の具体的出来事項目14「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」の「強」になる例としてあげられている「新興感染症の感染の危険性が高い業務等に急遽従事することとなり、防護対策も試行錯誤しながら実施する中で、施設内における感染等の被害拡大も生じ、死の恐怖を感じつつ業務を継続した。」に当てはまると主張した。
原告の提訴した令和6年(行ウ)第13号事件は、令和2年9月2日の療養費について労働者災害補償保険法に基づき療養費を請求したところ令和3年4月7日に不支給の決定をうけた(乙1・160頁)ことについて取消を求めるものである。上記令和3年3月中旬の精神障害の悪化は、請求よりも後であるから、この主張は令和6年(行ウ)第13号事件とは関係がない。
原告は、令和4年5月31日から令和5年11月30日まで間の休業補償給付を労働者災害補償保険法に基づき請求したが、これも令和6年1月17日に不支給になった(甲98)ため、その後令和6年(行ウ)第40号の訴訟を提起した。こちらの訴訟では、原告が休業しており補償を求めているのが、これについては、令和6年(行ウ)第13号事件と同じく、平成27年7月に業務により統合失調症を発病し、それによって上記期間休業したと主張するものであるが、それ以外に、令和3年3月中旬頃、統合失調症が悪化し、そのために休業したことが、業務に起因するものであることをも主張するものである。
準備書面⑴のうちの、精神障害の悪化について主張している部分は、令和6年(行ウ)第40号についての主張である。
以上