令和6年(行ウ)第13号 療養補償給付不支給処分取消請求事件
原 告 原告X
被 告 国(処分行政庁 名古屋東労働基準監督署長)
準備書面⑴
(被告第1準備書面への反論と原告主張)
令和6年7月1日
名古屋地方裁判所民事第1部合ホE係 御中
原告訴訟代理人弁護士 岩 井 羊 一
第1 はじめに
原告は、本準備書面において、令和6年5月2日付被告の第1準備書面に対し、必要と認める範囲で反論する。なお、略語については、本準備書面において新たに定義するもののほかは、従前の例による。
第2 第1準備書面の認否
以下、被告第1準備書面について必要な部分について認否する。
1 第1の3(2)について(6頁)
争う。
行政の認定基準は、裁判の基準ではなく、裁判所を拘束するものではないから、認定基準によって判断するものではない。
また、基補発0901第1号令和5年9月1日(心理的負荷による精神障害の認定基準に係る運用上の留意点について)には以下のように記されている。
「第3 調査中の事案等の取扱い 認定基準施行日において調査中の事案および審査請求中の事案については認定基準に基づいて決定すること。また、認定基準施行日において係争中の訴訟事案のうち、認定基準に基づいて判断した場合に訴訟追行上の問題が生じる可能性がある事件については、当課労災保険審理室に協議すること。」
上記の審査請求中の事案には再審査請求も含まれる、令和5年9月1日時点で再審査請求中であった本件は、再審査請求の際にも「平成23年認定基準」(乙5、乙7)ではなく「令和5年認定基準」(甲67以下「認定基準」という。)で判断されていた事件である。上記通達は、訴訟においても「認定基準施行日において係争中の訴訟事案のうち、認定基準に基づいて判断した場合に訴訟追行上の問題が生じる可能性がある事件については、当課労災保険審理室に協議すること。」と記載されているのである。
訴訟においては「認定基準」を参考に評価されるべきである。
さらに、認定基準が、訴訟において参考にされるのは、認定基準が、その当時の知見を踏まえて策定されたものであるからである。その意味でも、訴訟における業務起因性について判断する場合には、最新の知見をもとに策定された認定基準を参考にするべきである。
2 第2の1について(9頁10頁)
認める。
3 第2の2(1)について(10頁)
概ね認める。
「CT撮影等の業務に従事していた」の部分は争う。詳細は訴状第1の2の第4段落ないし第6段落のとおりである。
4 第2の2(2)について(10頁)
概ね認める。
初診日は平成28年4月1日であるが、本件疾病の診断は同年6月である。
5 第2の2(3)ないし2(6)(10頁)
認める。
6 第3の3(2)イ(15頁)
争う。
第8段落目について、少なくとも、障害者とわかっていながら業務に従事させた場合の悪化については本人基準説が採用されるべきである。詳細は準備書面⑴の第3の12にて述べるとおりである。
7 第5の1(42頁43頁)
認める。
8 第5の2(43頁)
概ね認める。
「CT撮影等の業務に従事していた」の部分は争う。詳細は訴状第1の2の第4段落ないし第6段落のとおりである。
9 第5の3(1)(43頁)
争う。
第1文の「所定終業時刻は午後5時30分」は平成27年当時のものではなく誤りであり、平成27年当時は「午後5時15分」である。(甲23の40頁)
10 第5の3(2)(43頁)
争う。
第一文の「60分または45分」は誤りであり、休憩時間は45分である。(甲23の40頁)
11 第5の3(3)及び(4)(43頁)
認める。
12 第5の4(1)(44頁)
認める。
13 第5の4(2)(44頁)
争う。
第1段落の平成27年当時の休憩時間は当直日か日勤か関係なく一律45分である。(甲32ないし甲38)
第一段落の病院関係者Jの証言の原告が休憩室で寝ており、電話番を免除されていた部分は平成28年9月以降の話であり、平成27年の評価期間とは関係ない。
14 第5の4(3)(45頁)
概ね認める。
第二段落の「翌日の午前中は」の部分は「翌日の午後は」でありこの部分は争う。
15 第5の4(4)(45頁)
概ね認める。
第二段落の「原告はテレビを見たり、本を読んだりして過ごしていたと思います」の事実は
争う。病院関係者Jの推測に過ぎない。
16 第5の4(5)(45頁)
概ね認める。
第1段落の「午後5時30分以降に」の部分は「午後5時」であるので、この部分の事実は争う。
17 第5の4(6)(45頁46頁)
アないしウに書かれていること自体は認める。
他に原告はCTの始業点検をしている日もある。(甲23の35頁)
18 第5の4(7)(46頁47頁)
第2段落は争う。
平成27年当時はこのような丁寧な管理は行われていなかった。このような管理が行われるようになったのは病院関係者Gが技師長になった平成29年7月以降のことである。
第3ないし第6段落は認める。
19 第5の4(8)ア(ア)ないし(ウ)(47頁48頁)
全面的に争う。
CT撮影記録にある「実施日時」とは検査終了(患者退出)時刻である。
CT撮影に要した時間を一律で10分とするのは誤りである。
肝ダイナミック(単純+造影)、膵ダイナミック(単純+造影)、腎ダイナミック(単純+造影)、脳動脈3D(造影)、CT-CAG(単純+造影)の検査は通常15分ないし20分は掛かる(甲93)。
始業時刻は更衣時間を考慮しタイムカード打刻時刻の5分前である。
終業時刻は超過勤務申請が認められていなかった雑務やCT再起動業務のために残っていたためタイムカード打刻時刻に、更衣時間の5分を加算した時刻である。
20 第5の4(8)ア(エ)(48頁)
全面的に争う。
休憩の分割は存在しない(甲81)。
休憩が取れていない日及び時間は第3の3(6)にて詳述する(甲40)。
21 第5の4(8)ア(オ)(49頁)
争う。
タイムカードに打刻がない勤務については第3の3(9)にて詳述する。
22 第5の4(8)ア(カ)(49頁)
争う。
待機時間の労働時間性については第3の3(7)にて詳述する。
23 第5の4(8)ア(キ)(49頁50頁)
争う。
宿日直勤務の労働時間性については第3の3(8)にて詳述する。
24 第5の4(8)イ(50頁)
争う。
時間外労働時間数については第3の3(10)にて詳述する。
25 第5の5(1)(2)(50頁51頁)
認める。
28 第5の6(2)(53頁)
全面的に争う。
第二段落の「原告は入職した当初から人よりミスが多く」は誤りである。病院関係者Jは「入職したばかりの頃の原告さんは、とても優秀でした」「CTの担当になった頃からミスをするようになりました」と述べている。(甲60)
第二段落の「造影剤を使わない検査なのに使ってしまったり」は誤りである。事実であれば重大なインシデントであるが、病院関係者J自ら記録した原告の指導記録にそのようなミスは存在しない。(甲4)
ここに記載していない出来事に対する主張は第3にてそれぞれ詳述する。
29 第6の1(55頁56頁)
第一段落は認め、その余は争う。
30 第6の2(1)(56頁)
認定基準の内容がそうなっていることは認める。
31 第6の2(2)(57頁)
第1段落と第2段落は認める。
第3段落の「40時間39分」の部分は争う。
32 第6の2(3)ア(イ)(58頁59頁)
全面的に争う
理由等は第3の1に詳述する。
33 第6の2(3)イ(イ)(60頁61頁)
全面的に争う
理由等は第3の2に詳述する。
34 第6の2(3)ウ(イ)(61頁62頁)
全面的に争う
理由等は第3の3に詳述する。
35 第6の2(3)エ(イ)(62頁63頁)
全面的に争う
理由等は第3の4に詳述する。
36 第6の2(3)オ(63頁)
第一段落は争う
理由等は第3の5に詳述する。
第二段落は認める。
37 第6の2(3)カ(イ)(64頁)
全面的には争う
理由等は第3の6に詳述する。
38 第6の2(3)キ(イ)(65頁)
全面的に争う。
理由等は第3の7に詳述する。
39 第6の2(3)ク(イ)(66頁)
全面的に争う。
理由等は第3の8に詳述する。
40 第6の2(3)ケ(イ)(66頁67頁)
全面的に争う。
理由等は第3の9に詳述する。
41 第6の2(3)コ(イ)(67頁)
全面的に争う。
理由等は第3の10に詳述する。
42 第6の3(67頁)
争う。
43 第7(67頁)
争う。
第3 原告の主張
1 パワーハラスメントについて
(1) パワーハラスメントの定義
職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるものであり、これら3つの要素を全て満たすものである(甲77)。
優越的な関係を背景とした言動とは、業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が行為者とされる者(以下「行為者」という。)に対して抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指す(甲77)。
次に、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動とは、社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指し、業務上明らかに必要性のない言動、業務の目的を大きく逸脱した言動、業務を遂行するための手段として不適当な言動、当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動のことをいう(甲77)。
この判断に当たっては、様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者の関係性等)を総合的に考慮することが適当であるとされ、その際には、個別の事案における労働者の行動が問題となる場合は、その内容・程度とそれに対する指導の態様等の相対的な関係性が重要な要素となることについても留意が必要であるとされる。なお、労働者に問題行動があった場合であっても、人格を否定するような言動など業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動がなされれば、当然、職場におけるパワーハラスメントに当たり得るものとされている(甲77)。
次に、就業環境が害されるとは、当該言動により、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指すとされる。(甲77)
この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」を基準とすることが適当である(甲77)。
なお、言動の頻度や継続性は考慮されるが、強い身体的又は精神的苦痛を与える態様の言動の場合には、1回でも就業環境を害する場合があり得るものとされている(甲77)。
(2) 病院関係者Aの指導場所について
病院関係者Aの指導場所は周囲のひらけた病院2階の放射線部におけるソファーのある場所や16列CTの前が多かった(甲6の2頁3頁、甲7)。
また時には地下1階の個室(甲30の17頁の図1でいう「アイソトープ検査室」と「ライナック治療室」に挟まれた無記名の個室で、以下「ライナック室」という)での指導もあった(甲30の17頁)。
ソファーの所での指導が多かったことは病院関係者Oが証言している(甲4の21頁)。
評価期間中ライナック室で指導を受けたのは平成27年5月25日のみであり、他は全てソファーのある場所である。
(3) 病院関係者Aの指導時間について
病院関係者Aは指導に際して原告を起立させたまま30分ないし40分の指導を行っていた。
病院関係者Cは、平成22年7月に2時間半の間、起立させられたまま指導をされたと証言している。
「俺あれだよ8時まで説教でおわったから5時半から」「そうだよ。表でさ,先生がずっと働いとって,俺ずっとここで立たされて怒られた」(甲4の22頁)
このように、病院関係者Aは、30分ないし40分の指導を日常的に行っており、これらはパワーハラスメントに該当する。
(4) 病院関係者Aの発言「馬鹿かお前は」「たわけか」「アホ」について
病院関係者Aは原告の指導に際して頻回に「馬鹿かお前は」「たわけか」「アホ」などの発言を繰り返していた。
発言した日について評価期間中は、指導記録の存在する平成27年1月16日、同年1月19日、同年4月8日、同年5月19日、同年5月25日、同年6月22日、同年7月13日である。(甲4の9~15頁)
原告は、病院関係者Aが上記のような発言を日常的に言っていたかどうか病院関係者C、病院関係者Hに確認すると、病院関係者Cは「うん。言われた言われた」と共感し、病院関係者Hも「いやあるよ。そんなん俺もあるよ。そんなの」と同意するとともに「うん。うんそんなの当たり前,当たり前のようにそんな,今の時代じゃ考えられないことがいくらでもあった時代だから」とこれらの発言を指導に際して日常的に受けた旨を証言している。(甲4の19頁22頁)
「馬鹿かお前は」「たわけか」「アホ」という言動は一般的には暴言や人格否定に属するものであるとされる。
(5) 病院関係者Aの発言「あぁん?」という巻き舌での威嚇について
病院関係者Aは原告の指導に際して口癖のように「あぁん?」と巻き舌で威嚇をしていた。
原告は病院関係者Aを挑発するような態度はとっていない。
発言した日について評価期間中は、指導記録の存在する平成27年1月16日、同年1月19日、同年2月19日、同年4月8日、同年5月19日、同年5月25日、同年6月22日、同年7月13日である(甲4の9~15頁)。
この「あぁん?」という巻き舌での威嚇は病院関係者Nの指導に際しても発せられており、病院関係者Nも職場において巻き舌で威嚇されたことに驚いた旨を「まき,まき,巻き舌だったっていうのがね」「職場で巻き舌!?って思ったけど」と証言している(甲4の17頁)。
(6) 病院関係者Aの発言「何年目だ!」「何年この仕事してんだ!」「新人でもできている」などの侮辱的な発言について
病院関係者Aは、原告の指導に際して口癖のように「何年目だ?」「何年この仕事してるんだ?」という発言を行っていた。
発言した日について評価期間中は、指導記録の存在する平成27年1月16日、同年1月19日、同年2月19日、同年4月8日、同年5月19日、同年5月25日、同年6月22日、同年7月13日である(甲4の9頁~12頁)。
この「何年目だ?」という発言については、病院関係者Oに原告が「怒られる度に『何年目だ』とか聞かれてたんでしょ?」と確認すると「あ~ありましたね」と答え、指導に際しても毎回発せられていたことが証言されている(甲4の21頁)。
また「新人でもできている」という発言自体は評価期間より前の平成26年11月27日であるが、指導記録に記載されており、パワーハラスメントが継続していることの証拠である(甲4の3頁)。
(7) 病院関係者Aの業務外の内容に対する指導について
病院関係者Aは業務と直接関係のないことに関しても部下を叱責することがあった。
原告は平成27年の年賀状が1月1日に間に合わず1月4日に届いたことを、業務のミスと合わせて平成27年1月16日に指導されている。
このような業務外の指導について病院関係者Hは「仕事以外の面でも結構怒られたことも確かにある」と証言しており、原告の年賀状については「年賀状!?それはお前送らないかんのじゃないか?それはお前所属長だから流石にそれは意気込みこめてお前、それは言われるわ」と指導を受けて当然であると証言している(甲4の19頁)。
病院関係者Aへの年賀状は、送ることが強制されており、この年だけ遅れた理由は平成26年11月30日ないし同年12月6日の小腸閉塞による入退院によって腹痛がまだ続いていたことや、入院前に比べて残業が多くなって手が付かなかったことであるので、これは平成27年の出来事である(甲96)。
また病院関係者Aは指導中唐突に「なんだその顔は?」と難癖を付けることが何度もあった(甲4の22頁)。
このことについて病院関係者Cは「こっから長いぞと思って、そういう顔するとまたそうやって怒られる」と証言している(甲4の22頁)。
(8) ミスした翌日に朝会議で報告と謝罪を求められていたことについて
ミスをした翌朝に朝会議で報告を求められていたことについては、「インシデントレポートとかあげたら言ってたかもですね」と病院関係者Oも証言している(甲4の22頁)。
朝会議時に「部署の信頼を傷つけ申し訳ありませんでした」と謝罪を求められていたことについては、「誰に迷惑をかけているのか理解しているか?個人ではない部署に技師長の信頼、評価に」という記述から、放射線部が、部署や技師長の信頼及び評価に重きを置いていたことがわかり、他の職員の面前で謝罪を求められていたという主張は合理的である(甲4の4頁)。
評価期間中、朝会議でのミスの報告で議事録に残っているのは平成27年5月20日と同年6月23日がある(甲4の11頁)。
(9) 「担当を外すことも検討する」「将来部下を付けることはできない」「部会も下のものが出た方がマシ」との侮辱発言について
撮影量も非常に多くこなしていた原告にとって(撮影量については項目2(2)~(6)にて詳述する。)平成27年6月22日に「担当を外すことも検討する」と発言されたことは(指導記録には「組織としてルールを守れないなら 専従者として対応出来なければ外す。」と記載がある。日付は6月23日となっている。)自尊心を傷つけられることであった(甲4の14頁)。
原告は、平成27年の時点で正確な数値は把握していないが、CT専従者として病院にとってかなりの収益をあげていることを自覚していたためである。原告の担当するCT撮影による収益は、医師の読影料金を含めずに病院収益の8%に上っていた(甲50)。
また平成27年7月13日の「将来部下をつけることはできない」「部会も下のものが出た方がマシ」との発言についても自尊心を傷つけられるものであった。(*部会=朝会議のこと)(甲4の12頁)
この病院関係者Aの上記発言のきっかけとなった同年7月8日のコードホワイトの対応とは、院内暴力事案の発生時の緊急呼集で、男性職員は現場に駆けつけることになっていたものである。(コードホワイトは医療業界では一般的な暴力事案を意味する隠語である。)(甲4の12頁、甲23の21頁、甲88)
放射線部において超過勤務申請してよい宿直中の業務は文書で定められていた
(甲24の17頁)。
それに従えば宿直報告の時間外勤務確認において報告義務はないと判断した原告の行
動を叱責したものであり、原告には理不尽に感じられるものであった。
(10) 鉛ガラスの改修を拒否されたことについて
原告が担当していた64列CTの鉛ガラス窓は、元々CT室用として設計されていないこともあり、強度不足から厚生労働省の定める漏洩線量の施設基準である1.3mSv/3か月以下を満たしておらず、4.0mSv/3か月であった(甲4の23頁)。
これについて原告は平成27年3月中旬に病院関係者I、M、Qらが漏洩線量測定に来た際に気が付いた(甲4の24頁)。
そこで原告は病院関係者Aに鉛ガラス窓を直してほしい旨を相談したが、「修理期間の収益がなくなるだろう!」「そんなこと上に言えるか!」と発言した後に、原告に対して「お前の被ばく線量はどうなっている?」と聞き、原告がおよその月間被ばく線量を答えると「法的上限を超えてないから問題ないな」と発言した。
そして病院関係者I、M、Qらに対して漏洩線量なしを示すBGと記載するように書類の改竄を指示している。(甲4の24頁)
測定した写真の撮影は令和2年のことであり、少なくとも職場は放射線漏れを放置しており、上記やり取りはあったとしても不自然ではない(甲4の23頁)。
この鉛ガラス窓の改修拒否は放射線関連の様々な法令に抵触するほか安全配慮義務違反でもあるのでパワーハラスメントである。(甲4の24頁)
(11) 病院関係者Jの発言について
病院関係者Jは指導記録にある指導の度に「医療従事者失格だな」「お前は技師長の期待を裏切っている」「病院関係者Bさんはこんなに頑張っているのにお前は」「医療者としてありえない」との発言していた。
業務量の多さからミスの発生しやすい状況であったため、原告にとっては心を刺すように感じられていた。
また病院関係者Jは平成27年6月23日に「お前は感覚が普通の人と違う。お前の価値観は普通の人の価値観からずれている」と原告に対して発言しており、この発言について指導記録に病院関係者Jは「不明だと思わない感覚がある。自分の価値で判断があまりにも多い。感覚がにすい」と記載している。(「にすい」は「にぶい」を意味する名古屋地方の方言と思われる。)(甲4の14頁)
これは原告の人格を強く否定しておりパワーハラスメントであるとともに、他の発言の存在事実を補強している。
病院関係者Jは労働基準監督署からの聞き取りに対して「私は人に対して強くものが言えないので、原告さんに対しても強く指導することができませんでした」と発言している(甲60・354頁)。
病院関係者Jは病院関係者Aのように怒鳴る、暴言、威嚇ということはなかったが、前記のとおり文脈で指導対象の心を刺すようなデリカシーのない発言は行っていた。
(12) パワーハラスメントが継続していたことについて
病院関係者Cが平成22年7月に2時間半の間起立させられたまま指導をされたと証言している。ことから原告の入職以前から病院関係者Aによるパワーハラスメントは存在していた(甲4の22頁)。
平成25年3月に翌年での退職意向を示した病院関係者Eを役職会議に出席させないなどの嫌がらせを病院関係者Aが行った結果、平成25年4月ないし5月に原告は病院関係者Eのストレス発散のはけ口として、病院関係者Eから椅子を蹴飛ばす、白衣を投げつけられる等の有形のパワーハラスメントを受けた。
これらについて病院関係者Eが病院関係者Aの行為を、原告が病院関係者Eの行為をそれぞれ医療安全管理部の病院関係者Kに通報した結果、平成25年6月に放射線部に対する一斉聞き取り調査が行われた(甲4の2頁)。
この一斉聞き取り調査の存在や病院関係者Eが病院関係者Aの行為を通報したことは病院関係者Cが証言している(甲4の2頁)。
またこの時に病院関係者Aがハラスメントの被告となっていたことを病院関係者Lも証言している(甲85、甲86)。
このとき原告は、病院関係者Kより「他に気になることはないか?」と聞かれ、病院関係者Aの「あぁん?」という巻き舌による威圧的な指導について病院関係者Kに報告している。
その後、原告と病院関係者Eとは夜間二人きりにならないような配慮がなされた。病院関係者Aの態度は改善されなかった。
そして、その直後である平成25年7月ないし平成26年3月にかけて、原告は病院関係者AよりCT撮影者の改竄を指示され、反対したにもかかわらずこれを行わされた。(不正会計については項目9(2)にて詳述する。)
これも業務指示とは言えず、犯罪行為であるので、パワーハラスメントである。
病院関係者Jの部下となった平成25年9月以降、病院関係者Jは原告に対する指導記録を詳細に付けているが、これらミスに関しては全て病院関係者Aと病院関係者Jから指導を受けている。(甲4の6頁~12頁)((14)参照のこと)
平成25年4月ないし5月より原告に対する上司ら病院関係者A、E、Jからのパワーハラスメントは実際にあったことである。
(13) 就業環境が害されていたことについて
主に病院関係者Aのパワーハラスメントによって就業環境は大きく害されていた。
そのことについて病院関係者Jは原告とのやり取りで「あの時代、みんなが胃を痛めていたからね、技師長のことも触れられるの?技師長が一番悩まれていたからね、それが当たり前のような時代、自宅にかえって厳しいことを言ってしまったと家族に言われていたんだ」と記載している(甲4の16頁)。
病院関係者Nは「やっと『あっ、イエスマンにならなきゃいけないんだ』っていうのが、そこでやっとわかって、それまでなんか言われると意見を言ってたんだけど、それが全部あの人にとっては反抗、反抗していたことになってたんだと思って、あの人が言ったことを全部『はい』って言わなきゃいけないんだって、そこで初めてわかったの」「やっぱ120%否定されたから初めてだったから結構へこんだけどしばらくはなんか嫌~な気持ちの日が続いて」と証言している(甲4の17頁)。
病院関係者Hは「その時代はもうだって、誰もがだってもうあの人には何か言ったら怒られると思って察して察して動いとった時代だろ?」と証言している(甲4の19頁)。
病院関係者Fは雑談の中で病院関係者Aとの出来事に触れて「恐ろしい時代、暗黒の時代があったんだよ」と証言している(甲4の20頁)。
また病院関係者Qの指導記録には「真っ先にパワハラについての言及があり」と書かれていることから病院関係者Qが職場でのパワーハラスメントの存在を気にしていたことがわかる(甲4の5頁)。
項目1(2)ないし項目1(8)のようなことが日常的に行われていたことが窺われ、これら証言から多くの人が病院関係者Aによって抑圧され、恐怖感を抱いていたことがわかる。
また多くの人が「時代」という表現をしていることからパワーハラスメント期間の長さを窺わせている。よって就業環境は大きく害されていたと言える。
(14) 放射線部における独特な報告体制についてと病院関係者Jの証言の整合性について
一般的な企業でいうと病院関係者Aの技師長職は部長職にあたり、その下に課長職などがあり、平社員となる。原告はここでいう平社員に相当する。
病院関係者Jの役職は主査であり、発病の評価期間中は原告の直属の上司であった。
そして病院関係者Jの直属の上司が病院関係者Aである。
ミス等の報告は平社員から課長職へ、課長職から部長職へと上がっていき、部長職から平社員への直接の指導は行われないことが通常である。
しかし放射線部においては、真っ先にミスをした本人から直接病院関係者Aへの報告が求められていた。
そして病院関係者Aから直接指導を受けた後に、病院関係者Aからミスをした者の直属の上司へ報告が行き、直属の上司が改めてミスをした本人を指導していた。
この体制による弊害として実際にあったことがある。正確な時期は不明であるが、原告がミスを病院関係者Aに報告し指導を受けた後に、病院関係者Aから「病院関係者Jには俺から言っておく」と言われ、原告が病院関係者Jとミスをしたその日にペアで時間外勤務をしているときに、夜外来の人が勤務終了となる20:00まで病院関係者Jに報告に行かなかった。そうしたところ病院関係者Jから、「全部技師長から聞いてるよ。なんで今更嘘つこうとするの?そんなのあり得ない。そういうことは本当にしないでほしい」と言われたことがあった。
病院関係者Jは労働基準監督署からの聞き取りで、原告から嘘を付かれて「そんなのあり得ない。そういうことは本当にしないでほしい」と言ったことが一度だけあったと証言している(甲60・335頁)。これはそのときのことである。
ペアで時間外勤務とは勤務表の「当直」と「夜外来」のことである。(甲23)
原告と病院関係者Jは、日勤帯は別々の場所で働いており、また病院関係者A以外は院内PHSを持っていなかったため、原告はすぐに病院関係者Jにミスの報告ができなかった場合も多かった。(放射線部の院内PHSは宿直者用と技師長用の2台のみであった)(甲32~甲38)
また原告の業務の忙しさから病院関係者Aには電話ですぐにミスの報告だけはできても、病院関係者Jに対してミスを報告できない時には、一緒に働いていた造影CT担当の看護師から「病院関係者Jに代わりに言っておこうか?」と気を遣われて、原告から看護師にお願いすることや病院関係者Bに代理報告を依頼することは何度もあり、病院関係者Jへの原告からの報告が遅くなることは日常的にあった。
そのため病院関係者Jは、ほぼ毎日「今日はどうだった?大丈夫だった?」と終業後に聞きに来ており、このこと自体は病院関係者Jも労働基準監督署への聞き取りで証言している。(甲60)
その際、原告は当日の出来事や細かなミスを病院関係者Jに報告していたが、原告自身が看護師等に依頼した病院関係者Jへの報告を、原告が病院関係者Jに報告し忘れることが何回かあり、「看護師さんからこういうことも聞いてるけど、隠蔽か?」「本音では大した問題じゃないと思ってるから思い出せないんだろ?担当者としての意識が低い」と言われることがあった。
病院関係者Jが被告からの聞き取り調査に際して、「看護師等からミスがあったことの報告があり、原告さんがミスを隠していたことが判明したことが何度かありました」と証言していること(甲60)は、事実に反している。看護師等に報告依頼しているのも原告であって、原告は隠蔽などしていない。
(15) 病院関係者らの証言の整合性について
病院関係者Jは「入職したばかりの頃の原告さんは、とても優秀でした」「CTの担当になった頃からミスをするようになりました」と述べている。(甲60)
平成24年4月の入職時からCT専従業務従事者となった平成25年7月までにおいては病院関係者Aからの直接的なミスに対する指導は平成24年夏ごろのインシデント事例となった1度だけであった。
この時からすでに「あぁん?」という威嚇はあり怖かった。
原告がCT専従業務従事者になった頃から原告のミスが増えたことも指導記録にある通りであるので、この証言は事実である(甲4の6~12頁)。
ミスさえなければ職場の雰囲気は悪かったものの病院関係者Aのパワーハラスメントの対象となることなく過ごすことができた。
またCT担当者とMRI担当者以外はそれほど忙しいことはないのでミスがあまり発生しない。
病院関係者Iは、MRIを一応は扱えるが、評価期間中は他の上位者と行うことが多く、単独で扱う日はほとんどなかった。(甲32~甲38)
病院関係者Iは、ミスが少なく優秀な人物であり、これは病院関係者Iが忙しくないRI担当者であったことにも起因する。病院関係者Iや病院関係者Pはミスがなく優秀な人物であったことについて、病院関係者Oも証言している(甲4の25頁)。
病院関係者Iは細かなミス程度はあったと推測されるが、朝会議の議事録に残るような大きなミスをしていない。(甲52、甲72、甲84)
病院関係者Aはミスが少ない人と女性に対しては暴言等を含めて厳しく指導しなかった。病院関係者Hは「特にあの人は男に対しては厳しかったから女の子じゃなくて男に対しては」と証言している。(甲4の19頁)
病院関係者Iは、労働基準監督署からの聞き取りときに「A技師長は乱暴な言葉を使う人ではありません。私はA技師長に乱暴な言葉で怒られたことはありません。A技師長は『怒る』というよりは、どうしてミスをしたのか、どうしたら防げるのか、今後の対応について指導してくれます」という証言している(甲59)。このことは、ミスが少ない病院関係者Iに対しては厳しく指導しなかったとすれば事実であると考えられる。また病院関係者Aが改心した後のことを証言している可能性もある(病院関係者Aの改心については項目11(2)で詳述する。)。
一見すると、病院関係者Aの指導に関して暴言や威嚇、長時間の叱責があったと証言する病院関係者Cや病院関係者Hや病院関係者Nの証言と、そのようなことはなかったと証言する病院関係者Iの証言は背反するように思われるが、それぞれは矛盾しない。
病院関係者Jの「人によっては、A技師長のことを苦手に思う人もいるかもしれません。原告さんは苦手だったと思います。」という証言からも、人によって病院関係者Aに対する得手不得手が違っていたことは、病院関係者らの証言の二面性を裏付けている(甲60)。
病院関係者Iが、病院関係者Aによる暴言等がなかったと証言していることで、病院関係者Aが、パワーハラスメントをする人物ではないとはいえない。むしろ、病院関係者C、H、Nの複数の証言があることで、病院関係者Aがパワーハラスメントをする人物であったことは十分に立証されているといえる。
(16) 原告の体調について
平成26年11月30日~12月6日に小腸閉塞による入退院をしていた(甲19、甲96)。
これ自体は細菌や寄生虫によるものというのは否定的で、原因不明である。
このときも退院時期の報告を平成26年12月5日に原告が電話で病院関係者Aにした際に、原告は「いつ退院するかが重要なんじゃねぇ、いつ現場に出られるかが重要なんだ。そこを主治医に聞いて来い。馬鹿野郎」と言われている。
退院直後にも業務軽減などの配慮がまったくなかったことは項目2(6)の表に示す通りである。
原告は友人と始めたロードバイク(競技用自転車)を趣味の一つとしていたが、退院後はロードバイク特有の前傾姿勢となると腹痛が出る旨を友人に伝えており、ロードバイクの練習を再開したのは平成27年4月25日である。ライド(走行会)に参加を再開したのは平成27年春頃から夏にかけてである。(5月ないし6月)(甲29の5頁、甲96)
これにより少なくとも平成27年3月頃までは腹痛がまだ続いていおり、体調は、万全ではなかった。
(17) 小括
言葉による精神的なパワーハラスメントを否定するためには「目的」と「手段」と「必要性」の全ての正当性がいえる必要があると解されるところ、(4)、(5)、(6)、(9)のような暴言や威嚇や侮辱発言は「手段」と「必要性」を満足していないと評価されるべきである。
(7)のような発言や指導は指導対象者が病院関係者Aを不必要に挑発した形跡も窺えないことや、この発言そのものが業務の改善に資することはないのであるから、「必要性」を満足していないと評価されるべきである。
(8)のような会議での本人による報告や謝罪は「必要性」を満足していないと評価されるべきである。
(10)の鉛ガラス窓の改修拒否は収益のために職場が本来講じるべき措置を怠っているので「目的」と「手段」と「必要性」が満足していないと評価されるべきである。
(11)のような人格否定は「手段」と「必要性」を満足していないと評価されるべきである。
(12)のように原告に対するパワーハラスメントの継続期間は平成25年4月ないし5月の病院関係者Eのパワーハラスメントを始点とし、平成25年7月ないし平成26年3月の病院関係者Aからの不正会計指示を経て、指導記録にあるように平成26年4月以降も継続し、本件発病まで続いていたと評価されるべきである。
(13)のように就業環境は害されていたのであって、パワーハラスメントの定義を満足していると評価されるべきである。
(14)、(15)のように原告のミスや病院関係者Aの言動については、証言者の主観においては誰も嘘を付いておらず、整合性がとれていると評価されるべきである。
(1)のように病院関係者Aについては指導場所も個室にて行うとの特段の配慮は見られず、(2)のように比較的長時間の指導を行っていたのであり、さらに(16)のような労働者の属性や心身の状況を鑑み、これらを総合的に評価すれば、その心理的負荷は「強」である。
被告は、病院関係者Aらが原告に対じ人格や人間性を否定するような発言等をしていたことを裏付ける客観的な証拠は見当たらないと主張する。
上述したとおり、甲60・乙1・350頁~351頁の記載している病院関係者Iの供述がこのようになっている理由は、病院関係者I自身はパワーハラスメントを受けていないからであると考えられる。原告は、病院関係者らに聞き取りをし、病院関係者Aからうけたパワーハラスメントを聞き取りしたり、自ら受けたパワーハラスメントを詳細に説明しているのであるから、パワーハラスメントがあったことは十分に立証されていると言うべきである。
なお病院関係者Iの聴取書、そのほか病院関係者の聴取書(甲59、60、乙1・350頁から361頁)は一部が開示されておらず、その開示されている部分だけを引用して被告に有利に主張するのは不公平である。不開示部分を開示するように求める。
2 達成困難なノルマが課せられたについて
(1) 認定基準項目7について
認定基準の別表1の業務による心理的負荷評価表の具体的出来事項目7の心理的負荷の評価の視点として、「ノルマの内容、困難性、強制の程度、達成できなかった場合の影響、ペナルティの有無及び内容等のほか、ノルマに対応するための業務内容、業務量の程度、職場の人間関係、職場の支援・協力の有無及び内容等、未達成による経営上の影響度、ペナルティの有無及び内容等、未達成による事後対応の困難性、その後の業務内容、業務量の程度、職場の人間関係、職場の支援・協力の有無及び内容等」が挙げられ、ここで言うノルマには達成が強く求められる業務目標を含むとされている(甲67)。
(2) 64列CTの撮影ノルマについて
原告は、評価期間中毎月、CT専従業務従事者として64列CTと16列CTの2台で合計1902件ないし2136件の業務目標が設定されていた(甲8の2頁ないし5頁)。
また日々の件数の達成状況について平成27年5月以降は朝会議で報告および書類提出とソファーの所にあるホワイトボードへの記入を求められており、それ以前についてもホワイトボードへの記入と朝会議での口頭報告は毎日していた(甲72、甲6の3頁、乙1の394頁)。
また病院関係者Nは「みんなすごいなんかノルマあったもんね、ノルマって言うか件数増やせみたいな」と証言しており(甲8の8頁)、業務目標の達成は強く求められていたというべきである。
また専従業務従事者の後任である病院関係者Qに対しても「CT業務効率の提案が欲しい。CTの依頼の目標、総件数の目標を専従者として決めて欲しい。件数を意識して業務をして欲しい、どうしたらいいと検討を重ねることなしでは何も生まれない」とし(甲87)目標の設定と達成を強く求めていることがわかる。
また現実には64列CTと16列CTとの保険点数の違いから、64列CTに4分の3程度の比重を置いて検査が行われており、原告が担当していた64列CTの評価期間中の業務目標は1461件ないし1681件であった(甲5、甲8~16)。
ただし、この件数は休日夜間、原告の休みの日等を含むために、64列CTにおいて他の技師との合算で達成できれば適切な業務目標である。
(3) 64列CTの撮影ノルマと他県や全国の撮影件数との比較について
中央社会保険医療協議会議事次第の資料によると1ヵ月装置1台当たりに840件以上のCT検査を行っている国内の病院は平成26年時点で4.83%である(甲71)。
原告が主に担当していた64列CTに課せられていた業務目標は優にその1.5倍を超えているのであるから、客観的に見ても達成困難なノルマであった。
また1か月装置1台当たりの全国平均は419件であるが、この数値は病床規模が平均化されているので、より原告に不利となる同病床規模の病院における全国平均は556件である(甲18)。
各種の定量的評価については原告に不利かつ病床規模という状況の似通った556件を用いることとする。
全国平均から見ると、原告が主に担当していた64列CTに課せられていた業務目標は2.6倍ないし3.0倍である。やはり客観的に見ても達成困難なノルマであったと言うべきである。
また愛知県とCT配置台数や人口などの条件が比較的近い兵庫県と比較すると、一番検査件数の多い淡路でも1日当たり1台で28件である(甲17)。
原告が主に担当していた64列CTに課せられていた業務目標は64列CTと16列CTとの比重を考慮すると1日あたり65.3件ないし71.6件である(甲8)。
これは兵庫県のデータの2倍から2.55倍である。こちらでも客観的に見て達成困難なノルマであったと言うべきである(甲8)。
(4) CTの人員と業務量について
診療放射線技師の配置人数は、兵庫県全体では装置1台あたり1.2人であるが、原告の病院と同病床規模の病院の場合は1.4人である(甲17)。
64列CTと16列CTの業務については病院関係者Bと協力して行っていた。(甲32~甲38)
原告は64列CTのみを扱い、病院関係者Bは放射線部の両端にある64列CTと16列CTを一日に何度も往復しながら業務を行っていた。(甲7)
そのため病院関係者Bの16列の従事割合から64列CTの従事人数を1.625人と仮定した。(甲10、甲32~甲38)(算出過程は項目6(3)にて詳述する。)
CTの適正配置人数を兵庫県のデータから1台当たり1.4人として全国平均件数と比較した場合、原告は平成26年4月から平成27年7月の病院関係者Bが在職していた期間において1.73人ないし2.92人分の撮影件数を行っている。((6)の表)
被告は原処分や審査請求において病院関係者Bの業務について、「64列CTは手伝っていたにすぎない」や「16列CTの担当者である」としているが、仮に病院関係者Bの64列CTへの寄与度を小さく評価した場合、64列CTの従事人数が1.625人を下回ることとなり、より病院関係者Bが休職していない在職時の原告の負担が1.73人ないし2.92人分より大きくなるのは自明である。
(5) 撮影ノルマの達成状況について
原告は平成27年5月を除き、全ての月においてCT装置全体に課せられた撮影ノルマを達成している(甲8の1頁~5頁)。
平成27年5月の未達成を報告した同年6月1日には、業務改善提案書の提出を病院関係者Aから求められており、「これ以上どうするんだ……」と苦悩しながら、業務改善提案書を提出している(甲8の8頁、甲84)。
(6) 原告の個人ノルマの推計と撮影数
(2)~(4)では「原告が主に担当していた64列CT」で評価を行ってきた。
被告は「CT撮影記録によれば原告以外の他の技師が撮影し、原告によるCT撮影のない日や撮影のない時間帯がそれなりにある日もある」という理由でノルマが課されたとはいえないと主張している(被告第1準備書面60頁)。
そこで、この項目ではより厳密に、「原告個人」に課せられたノルマや業務量を指摘する。
【前提1】中央社会保険医療協議会議事次第の資料によると1か月装置1台当たりに840 件以上のCT検査を行っている国内の病院は平成26年時点で4.83%である(甲71)。
【前提2】1か月装置1台当たりの全国平均は419件である。しかしこの数値は病床規模が平均化されているので、より原告に不利となる同病床規模の病院における全国平均は556件である(甲18)。
原告の病院の場合、64列CTの夜間休日の寄与率は23.25%である(甲11~16)。
これらの数値は24時間30日ないし31日CTを稼働させた場合の件数であるので、夜間休日の寄与率を考慮し、日勤帯のみとすると以下のように言い換えることができる。
日勤帯に1か月装置1台当たり645件を超える病院は4.83%である。
【2】 日勤帯に撮影された全国平均は1か月装置1台当たり427件である。
夜間休日の寄与率は原告の病院のデータに基づくので、【1】【2】でいう日勤帯とは平日8:30から17:15および土曜日8:30から12:30であり、その時間は週あたり47時間45分である。
原告の所定労働時間は週40時間なので、83.77%の補正を加えてさらに以下のように読み替えることができる。
【3】 ある技師が所定労働時間に全てCTに従事し1か月装置1台当たり
540件を超えるのは技師全体の4.83%である。
【4】 ある技師が所定労働時間に全てCTに従事し撮影された全国平均は
1か月装置1台当たり358件である。
原告が日勤帯にCT以外の業務に従事した時間数は平成27年1月が約16時間、同年2月が約20時間、同年3月が約4時間、同年4月が約8時間、同年5月が約12時間、同年6月が約16時間、同年7月が約31時間であり、このことから週のCT従事時間は平均して36.2時間である(甲32~甲38)。
よって【3】【4】に90.5%の補正を加えることでさらに以下のように読み替えることができる。
【5】 ある技師が原告と同じ時間CTに従事し1ヵ月装置1台当たり
489件を超えるのは技師全体の4.83%である。
【6】 ある技師が原告と同じ時間CTに従事し撮影された全国平均は
1か月装置1台当たり324件である。
(2)で述べたように原告が担当していた64列CTの評価期間中の業務目標は1461件ないし1681件であった(甲8~16)。
これを原告個人に課せられたノルマに先ほどと同じ方法であてはめると、上記件数は夜間休日を含んだノルマであるので、夜間休日の寄与率23.25%を考慮し、日勤帯のみのノルマとすると、1121件ないし1290件となり、さらに週40時間全てをCT業務に従事する技師に課せられたノルマは83.77%で補正すればよいので、939~1080件となり、さらに原告個人に課せられたノルマは週当たりCT従事時間36.2時間を考慮し補正を加え、849件~977件であると言える。
これを【6】と比較すると原告に課せられたノルマは全国平均の2.6倍~3.0倍である。
「原告が主に担当していた64列CTに課せられた」という主語で検討した場合のノルマの量は2.6倍~3.0倍であり、「原告に課せられた」も2.6倍~3.0倍であり、これらは同義とみなすことができる。
よって次の4つのことが言える。
ア 1か月装置1台当たりに840件以上のCT検査を行っている国内の病院は平成26年時点で4.83%である。原告に課せられていた業務目標は優にその1.5倍を超えている。(甲71)
イ 全国平均から見ると、原告に課せられていた業務目標は2.6倍ないし3.0倍である。
ウ 原告に課せられていた業務目標は64列CTと16列CTとの比重を考慮すると1日あたり65.3件ないし71.6件である。これは兵庫県のデータの2倍から2.55倍である。
エ 原告は平成26年4月から平成27年7月の病院関係者Bが在職していた期間において1.73人から2.92人分の撮影件数を行っている。
あるAとあるBとの比率と、それぞれに同じ乗算除算の数値処理を施したA’とB’との比率が一致するのは自明であり、よって比率の計算において「原告が主に担当していた64列CTに課せられた」と「原告に課せられた」の2つの主語が同義とみなすことができるのも自明である。
以上より、被告の「CT撮影記録によれば、原告以外の他の技師が撮影し、原告によるCT撮影のない日や撮影のない時間帯がそれなりにある日もある」という理由で、達成困難なノルマではないということはできない。
原告が所定労働時間内(宿日直時、残業撮影を除き、土曜日撮影はフレックス勤務なので含める)に64列CTで撮影した件数等を示し直接検討する(甲11~甲16、甲93)。
表の「全国平均比」は【6】で求めた数値との比較であり、「何人分か」は64列CTの従事者数を病院関係者Bの勤務状況から1.625人として、全国平均を1.4人とした場合に、原告が平均的診療放射線技師の何人分の業務をしていたかを示す。
()内数は仮に被告が言うように病院関係者Bが64列CTを「手伝っていた」にすぎず、64列CTへの寄与度がなかったとした場合の数である。
平成27年1月は病院関係者Bが全体の3分の1休職しているので64列CTの従事人数を1.417人、同年2月と3月は従事人数を1人とした(甲32~甲34)。
なお、原告が所定労働時間内に64列CTで撮影したもののみを集計した数値であるため、16列CTを誰がどれだけ行っていたとしても、原告が休みや他勤務の時に誰がどれだけ64列CTを行っていたとしても、議論する必要性がない。
なお前記のとおり原告個人に課せられたノルマは849件ないし977件である。
表1 原告の撮影件数と全国平均比などとの比較
| 日付 | 単純 (件) | 造影 (件) | 合計 (件) | 全国平均 比(倍) | 何人分か (人) |
|---|---|---|---|---|---|
| 平成26年4月 | 737 | 133 | 870 | 2.69 | 2.31 (3.76) |
| 平成26年5月 | 644 | 117 | 761 | 2.35 | 2.02 (3.29) |
| 平成26年6月 | 761 | 108 | 869 | 2.68 | 2.31 (3.75) |
| 平成26年7月 | 842 | 158 | 1000 | 3.09 | 2.66 (4.32) |
| 平成26年8月 | 922 | 140 | 1062 | 3.28 | 2.82 (4.59) |
| 平成26年9月 | 820 | 150 | 970 | 2.99 | 2.58 (4.19) |
| 平成26年10月 | 833 | 161 | 994 | 3.07 | 2.64 (4.30) |
| 平成26年11月 | 547 | 103 | 650 | 2.01 | 1.73 (2.81) |
| 平成26年12月 | 621 | 105 | 726 | 2.24 | 1.93 (3.14) |
| 平成27年1月 | 743 | 151 | 894 | 2.76 | 2.73 (3.86) |
| 平成27年2月 | 706 | 134 | 840 | 2.59 | 3.63 (3.63) |
| 平成27年3月 | 893 | 149 | 1042 | 3.22 | 4.50 (4.50) |
| 平成27年4月 | 855 | 177 | 1032 | 3.19 | 2.74 (4.46) |
| 平成27年5月 | 678 | 162 | 840 | 2.59 | 2.23 (3.63) |
| 平成27年6月 | 916 | 181 | 1097 | 3.39 | 2.92 (4.74) |
| 平成27年7月 | 768 | 154 | 922 | 2.85 | 2.45 (3.98) |
(集計に使用したデータは甲11ないし甲16から原告の日勤帯を抽出した甲93)
評価期間中に個人ノルマ未達成の月は、平成27年2月、同年5月、ノルマ未達成の可能性があるのは平成27年1月、同年7月、達成しているのは平成27年3月、同年4月、同年6月であると言える。
(7) 原告の撮影数は全国の上位何%かについて
(6)で説明したとおり「原告が主に担当していた64列CTに課せられた」と「原告に課せられた」は同義といえる。
原告の撮影数が全国の上位何%かを求めるには、甲8の6頁の図12の日勤帯CTB件数と中央社会保険医療協議会議事次第の1ヵ月装置1台当たりの件数グラフを日勤帯に補正したもの(以下「件数グラフ」)を比べればよい。(甲8の6頁)
図1 マルチスライス型CT1台当たり検査数別台数と存在率(病院)
件数グラフに近似曲線を引くにあたって、左端は数値が突出して少なく、右端は「以上」という形でまとまっているため、はずれ値として除外した。
その上で件数グラフに指数近似を施すと以下の式になる。
(式1)
このR二乗値は0.8953であり非常によく近似できていると言える。
グラフ上、正確な台数は読み取れないので、読み取れる存在率(%)を縦軸に置き換えると次のようなグラフになる。
図2 日勤帯のマルチスライス型CT1台当たりの月間件数と存在率(病院)
つまり(式1)で件数グラフをさらに右側に伸ばせばよい。
ただし(式1)は無限に続くので現実的に不可能と考えられる、2000件を上限にして標準化することとする。
2000件までに82.48%のデータが含まれるので、補正係数aを求めておく。
(式2)
図3 日勤帯のマルチスライス型CT1台当たりの月間件数と存在率(近似曲線)
甲8の6頁の図12では平成26年4月~平成27年7月までのCTB日勤帯件数は1253件~1542件である。(甲8の6頁、甲11~甲16)
あとはそれぞれまで下側に何%のデータがあるか求めればよいので、それを求めると99.84%~99.96%となり、原告の撮影件数は上位0.16%~0.04%に属していると言える。
診療放射線技師の人口は令和2年において45177人であり、仮に全員がCTを担当した場合、日勤帯の忙しさは上位18位~72位であると推定できる。
(8) 医学物理士の取得要請について
2(1)から2(6)のような過剰過密な業務状況に加えて、原告は病院関係者Aより医学物理士という認定資格を取得するように求められていた(甲8の11頁)。
最初に要請があったのは平成26年4月であるが、個人目標として細かい計画を求められたのは平成27年4月下旬である(甲8の10頁)。
原告は、平成26年4月から平成27年4月までは、資格を取るつもりはなかった。甲58の聴取書11項で、「資格を取るつもりはなかった」と述べているのは平成26年4月に要請を受けてから平成27年4月までのころの考えを述べたものである。そのため、原告は、平成26年4月の打診から平成27年4月までは全く医学物理士に関しての勉強していなかった。しかし、平成27年4月下旬の面談時に「お前、資格取るって言うのはまさかリップサービスじゃねぇだろうな?あぁん?」と病院関係者Aにすごまれて、本格的な勉強を開始した。
平成27年7月16日の病院関係者Jの指導記録に「CT専従と医学物理士を目指すことの両立はストレスであると考え、自分で決めるように伝えて頂いた」と記載がある(甲8の9頁)。病院関係者Aもこの資格を目指させること自体が原告にとってストレス要因になると考えていた。
この資格の受験資格は大学院卒業と原著論文の発表経験というかなり高いハードルが課せられており、当時受験資格を満たしていたのは原告のみであり、期待を一身に背負わされる重圧を感じていた(甲8の9頁~11頁)。
(9) CTC(コロノグラフィー)読影スキルの習得課題について
2(1)から2(6)のような過剰過密な業務状況に加えて、原告は病院関係者JよりCTC読影スキルの習得を目指して欲しい旨の要請を平成27年2月26日に受けて、病院関係者Jは課題症例のピックアップを始めた(甲8の11頁)。
課題症例が指定され患者IDリストとして原告に手渡されたのが平成27年4月下旬頃であり、この際は同年6月頃を目途に指定の50症例の過去の読影結果を実際に3D処理し、読影補助ができるまでにするという課題が課せられた(甲8の12頁)。
この課題には1症例あたり30分から1時間の時間が必要であるが、帰宅後は医学物理士の方の勉強があり、また業務時間内にはとても研修を行うことができなかったため、宿日直勤務中の空き時間や画像処理による残業のない日を使って研修を進める必要性があった。
宿日直の回数も月3回程度であったことから実際にできたのは合計7症例であり、あまりの研修の進まなさを病院関係者Jに指摘され平成27年6月14日に1症例追加で行っている(甲8の11頁12頁)。
(10) CT検査被ばく量の再検証作業について
2(1)から2(6)のような過剰過密な業務状況に加えて、原告は病院関係者Aから平成27年4月20日の朝会議での内容に基づき、患者の被ばく線量の確認と現在の撮影条件の確認を行うように求められた(甲8の13頁~15頁)。
この業務は、原告が、学生時代の研究で数値データを取り扱うことに慣れていたことや解析などの知識を有していたことから、原告が担当することとなり、小児頭部や胸部といった撮影の解析がされ、平成27年5月18日までのデータでそれらは完成している(甲8の13頁14頁)
このこと自体は病院関係者Jも被告の聞き取りに対して証言している(甲60・357頁)
日々時間に追われる業務の中で、解析する部位を撮影する患者に対し、理由を説明して体重を聞く作業は、日々の時間管理の難易度をあげ、大きく業務負荷となっていた。時間管理の難易度を上げたというのは、甲54に「遅延が発生」と多く記載されていることからもわかる。
その後、腹部や心臓といった他の部位も追加されていき、全ての作業が完了したのは平成27年9月上旬であった。
(11) 日頃の業務協力体制と病院関係者B休職時の協力体制等について
平成27年1月下旬から3月末にかけて一緒にCT業務を行っていた病院関係者Bが休職した際には、病院関係者Bの業務のうち16列CTは病院関係者H、J、Qによって行われていた(甲10)。
64列CTについては原告が負担しており、64列CTの撮影そのものに職場から支援が行われていたという証言はない(甲58、甲59、甲60、甲63)。
正職員同士が協力した撮影については両名の名前が記載されていることからも64列CTの撮影自体には支援がないことは確認できる(甲11~甲16)。
16列CTでの検査は基本的に誰でもできる検査しか行わず、やむを得ない場合を除いて造影検査は行なっていない(甲94)。
残業が必要な3D画像処理は基本的に造影検査であり、64列CTで撮影されている(甲93)。
平成27年当時は、まだ職場内に3D画像処理は撮影者が原則行うものという暗黙のルールが存在していた。
CT専従業務従事者の前任者である病院関係者Hは、CT専従業務従事者時代の話を「撮影もひとりぼっちでやってたから、5時に終わらないし、時間外に撮影伸びることもあってそっから処理だからね。」「本当最後まで一人で撮影して最後自分で全部処理して帰るみたいな」のように振り返っている。(甲9の1頁3頁)
この病院関係者HがCT専従業務従事者であったころ、他にCT担当者は病院関係者Jもいたが、この発言からも前記の暗黙のルールの存在がわかる。
病院関係者Jが病院関係者Bの入職以前にCTを担当していたことは自ら述べている(甲60)
このことは、原告とCT担当者であった病院関係者H、J、QのCTに関する残業時間にも表れており、評価期間中である平成27年1月から7月にかけて、CTの撮影および画像処理による残業の60%を原告が担当し、病院関係者Hは10%、病院関係者Jは13%、病院関係者Qは17%しか担当していない(甲9の9頁、甲91)。
またCTを主に担当した日において担当者はCTの再起動業務が完了するまで帰ることができず、CT専従業務従事者であった原告が主にその役割を担っていた。このCT再起動業務が当直者業務に移行されたのは平成28年2月のことである(甲92)。
このことから職場の支援・協力が希薄であったというべきである。
(12) CT専従業務の負担感に関する病院関係者Hの証言と整合性
原告が病院関係者Aから平成27年7月16日に「病院関係者Hもノイローゼ気味だったんだぞ」と聞いていたことを思い出し、CT専従業務従事者の前任者である病院担当者Hに尋ねた際には「いや~そりゃお前だって、お前も多分わかると思うけど辛いだろ?」「ノイローゼ気味って思われてたのかもしれんけどね。そりゃ参ってた日はそりゃあるとは思うよ。辛いのは間違いなく辛い。負荷がかかるのは間違いなく負荷かかるし」と証言している。(甲9の1頁)
また休憩について尋ねると「休憩だって正直そんなろくにとれてなくて一日ぶっ通しで働いてたような時代だろ?」「俺なんてかじりながらだよ」「俺も本当そうだもんだって、そんなんで食うしかなかったから『とりあえず買ってきて』っていうか合間見て……」「今みたいに1時間も休憩そんな座って食べてそんなこと絶対なかった。」と証言している(甲9の2頁)。(*「今」とは令和3年4月のことである。*平成28年7月1日より定時変更に伴い休憩時間が45分から60分に変更となっている)
また仕事の辛さについて尋ねると「しんどいよ。そりゃ、誰も手伝ってくれないもん。病院関係者J全然手伝ってくれないし」「ただまぁ苦しいのは苦しい。けどまぁ、俺はその、なんていうんだろう自分の中でリフレッシュする気分転換みたいなやつで、なんとか持ちこたえっとたような感じがするけど」と証言している(甲9の3頁)。
また原告と病院関係者Hの業務の辛さが同程度であったかについては「それはやった人間にしか多分俺にはわからんと思うし」「だから俺とお前しかそういうのは味わってない。専従とか」「俺だってただ本当に倒れてたっておかしくないくらいやらされとったから」「そんな時代だったから俺だってそりゃ苦しかったよそりゃ、苦しくないわけないだろうアレ」「お前やっとったからわかるだろう」「そんなこと言ったら過労死ラインとかあるかもしんないけど、正直時間外だけいったらえらいことになっとるよ」「本当に苦しかったのは俺とお前だけだと思うで、その専従やっててね」と証言している(甲9の3頁、4頁、6頁、9頁)。
またキャリアパスなどの経験が原告と同種と言えるかについては「1年目の冬くらいから、その次の年にCT担当の人がスコッとみんな居なくなるからっていって」「だから同じようなもんでしょ」と証言している(甲9の4頁)。
また病院関係者Jが仕事を教えてくれないことについては「そうだよ。俺の時もそうだよ。俺も自分で考えろって言われたから自分で考えてあの~プランを組むようになったし、別にそれが全部1から10まで教えて欲しいとは思わんけど、ただ教えてくれなさすぎだろとはすごく思ってた」「もうちょっと教えてくれよって」と証言している(甲9の5頁)。
業務の過密さや64列CTと16列CTの比重の違いについては「外線なんか掛ける余裕ない、ない、ない、そんな朝からだって検査でそんなずっとだって今みたいに2台でやってないもん1台だもん」「1台でそんな16列使うなんてそんな発想には中々ならんかったから」「うん。だから当たり前のようにそういう風にやるって言わされて、点数が違ったからね外来は絶対こっちとかそういう」と証言している。(ここでいう「今みたいに」とは証言が収録された令和3年4月のことで、この時点では64列CTと320列CTが稼働しており、この両装置の保険点数は同じであった。)(甲9の5頁)
病院関係者Hと原告の撮影量を比較すると、病院関係者HがCT専従業務を行っていた平成22年度を100%とした場合、原告の業務量は平成25年度が103.3%、平成26年度が109.7%、平成27年度が112、5%となっている(甲9の7頁)。
このことから病院関係者Hと原告のCT専従業務従事者としての勤務状況はほぼ同等のものと言えるため、病院関係者Hの証言は原告の勤務状況とおなじ状況について述べていると言える。
(13) ノルマの意義
富山地判令5.11.29丸福石油産業事件において裁判所は以下のように判断している。
「被告らは被告会社の各店舗の目標はノルマではない旨主張し、p、h、q、被告fらはこれに沿う供述等をする・・・。」
「被告会社では、i店においては、gに年間の売上目標案を計画させ、被告f及びhがこれについてgと協議して合意したものを売上目標として決定していたところ、被告会社では売上目標をノルマとは呼称せず、目標を達成することができなかった場合でもペナルティを科していなかったことが認められる・・・。しかしながら、被告fやhは、各店舗の売上目標に対してもう少し頑張るようになどと述べて修正することがあり、各店舗の責任者に目標の達成に向け取り組むよう指示していたこと及び被告会社では、毎月開催される店長会議等において各店舗の売上目標の達成度合いを確認し、達成することができなかった場合には反省点などを報告させることがあったことからすれば・・・、i店の売上目標は、店舗統括者であるgにとって業務命令に当たり、ノルマとして課されていたと認めるのが相当である。」
この裁判例は、上長がもう少し頑張れと目標を修正していたこと、目標達成に向けた取り組みが指示されていたこと、目標が達成できない場合に、反省点などが報告されていたことといった事情が認めらる場合には、ノルマと呼ばれていなかったとしても、またペナルティが課せられていなかったとしても認定基準にいう「ノルマ」に該当するということを示している(甲90)。
また被告は目標を達成できた月の方が多いことを理由に達成困難なノルマではないと主張するが、達成できていたかどうかは主観的な事柄ある。全国のCT撮影件数の平均と比較すると、原告は、通常一人では担当できない数を、経験等を駆使して目標を達成していたのであり、達成できていたから達成困難なノルマではなかったとはいえない。被告の主張は理由がない。
(14) 小括
原告は評価期間中に平成27年5月を除き、その業務目標を達成しているものの、その業務目標は達成困難なノルマであったと言わざるを得ず、また病院関係者Aより強く求められていたものであり、努力すれば達成も可能であるノルマが課され、この達成に向けた業務を行ったと言える。
またノルマ未達成であった5月については業務改善報告書の提出を求められて提出しているのであるから、ノルマが達成できなかったことにより、その事後対応に一定の労力を費やしたに該当する。
また病院関係者Hの証言も加味すると、病院関係者Jが撮影方法を教えてくれない、CTに関する残業が原告に偏っているなど、病院関係者Bの休職期間のみならず、全体を通して職場の支援・協力が希薄であったというべきである。
また原告にはこれら撮影ノルマの他にも『医学物理士の資格取得の要請』や『CTCコロノグラフィーの読影課題』や『CT被ばく量の再検証作業』などの業務が課されていたことは心理的負荷を増大させる要因として考慮すべきである。
よってその心理的負荷は「強」に近い「中」であると言える。
3 労働時間について
(1) 平日の宿日直時間帯と業務について
平日の宿直については、平成27年当時は19:00開始とされており、17:15から19:00については、放射線部においては通常勤務として取り扱われていた。
この時間は、宿直明け日の日勤において本来定時まで勤務すべきところを昼過ぎで帰宅するためのフレックス勤務としてあてがわれていた。そのため17:15から19:00においても各種業務を行っているが、宿直日の超過勤務表は19:00以降にしか申請されていない(甲23の5頁~21頁、甲83)。
また実際に原告は宿直明け日に17:15の定時まで働いた日は一度もない(甲19)。
よって平日宿直日の17:15~19:00は通常勤務であり、宿直時間は19:00~翌8:30である。
宿直明け日に午前中に帰宅している場合、原告は半日のフレックス休暇や有給休暇を取得している(甲19)。
また平成27年においては超過勤務表には申請されていないが、宿直明け日の朝には部署内の全パソコンの再起動や装置の起動、部署の清掃、予約台帳の複製、当直報告の作成等の業務があり、それらは病院関係者Gが平成29年7月に技師長に就任して以降、申請が認められるようになった。(甲25)
上記業務自体は平成27年にも存在し、既に労働者災害補償保険審査官によって宿日直中の実労働としても認められている(甲65・38頁)。
(2) 祝日休日の宿日直時間帯と業務について
祝日休日の宿日直時間帯は日直が8:30から17:00、宿直が17:00から翌8:30である。
日直の時間帯、平成27年当時は超過勤務を付けることを禁止され、代わりに半日(4時間)の代休が付与されていたため、超過勤務記録にはなく検査実施記録しか存在しない。(甲23の5頁~21頁、甲24の2頁~15頁)
宿日直中は常に院内PHSを携帯し、入電があれば即座に対応を求められており、病院の指揮命令下にあったため、完全に労働から解放されたような休憩時間は存在しない(甲24の2頁~15頁)。
昼食や夕食は検査が途切れたタイミングを見計らって適時取っていたにすぎない。
(3) 更衣の労働時間について
制服への更衣は就業規則によって定められた労働準備行為であるため労働時間である。(最高裁平成12.3.9判決、労判778号11頁)(甲23の2頁)
原告は、出勤時は制服更衣後にタイムカードを打刻し、退勤時はタイムカード打刻後に私服に更衣していた。
定められた更衣室は病院に隣接するエレベーターのないマンション(以下「第三豊郷ビル」という)にあり、場所も4階の奥から2番目の部屋(406号室)であった(甲76、甲95)。
タイムカード打刻機は放射線部(病院建物2階)前にあり、このことは病院関係者Jが証言している(甲60)。
第三豊郷ビル4階の更衣室からタイムカード打刻機までにはそれなりに距離があり、更衣時間はそれぞれ5分とするのが妥当である。
(4) 土曜勤務の休憩の存否について
土曜日勤務は定時が8:30から12:30であり、6時間未満の勤務には休憩を与えないことになっている(甲23の40頁、甲82)。
土曜日勤務に休憩時間は存在せず、土曜日において12:30以降に勤務している場合は残業であり、昼食は多少遅くなることはあっても帰宅後に取っていた。
(5) 休憩時間の分割の存否について
原告の平日勤務における休憩時間は通常時は45分であった(甲32~甲38)。
基本的な休憩時間については病院関係者Iが証言している(甲59)。
やむを得ない場合に分割取得することは認められていたが、記録に残す運用となっており、分割取得をした履歴は1度だけである(甲81)。
よって本件評価期間中に休憩の分割取得は存在しない。
(6) 休憩時間の削減と場所について
原告は休憩が十分に取得できていない日も存在した。日付と時間については下記の表に示す。その集計方法は甲40において原告が説明しているとおりである。
日勤帯に64列CTが無人になることはありえないことである(甲32~甲38)。
評価期間中に原告はソファーの所か64列CTの脇で休憩を取っていた。
そしてソファーのところで休憩している日は休憩中の人全員で電話番も兼ねており、(誰が電話を取るかなどのルール化はされていない。原則勤務中の人が電話に出るが撮影等で手が離せない場合に休憩中の人が対応する)原告は1回休憩につき1回程度の頻度で電話を受けていた。
表2 削減された休憩時間
| 日付 | 削減された休憩時間(分) |
|---|---|
| 平成27年1月13日 | 16 |
| 平成27年1月14日 | 6 |
| 平成27年1月19日 | 45 |
| 平成27年1月21日 | 45 |
| 平成27年1月28日 | 45 |
| 平成27年2月2日 | 45 |
| 平成27年2月18日 | 14 |
| 平成27年2月26日 | 45 |
| 平成27年3月13日 | 15 |
| 平成27年4月7日 | 10 |
| 平成27年4月8日 | 31 |
| 平成27年4月21日 | 13 |
| 平成27年4月27日 | 15 |
| 平成27年5月13日 | 12 |
| 平成27年6月3日 | 14 |
| 平成27年6月11日 | 22 |
| 平成27年6月16日 | 6 |
| 平成27年7月3日 | 15 |
(7) 待機勤務について
原告は、労働契約に基づき、シフト制で待機勤務をしていた(甲23の22頁~28頁、40頁)
待機勤務中は、飲酒は禁止されており、緊急登院の連絡を受けた際には30分以内に到着する必要があり、実際に自宅が遠い病院関係者Oと病院関係者Fは毎回、病院関係者Jは家庭の都合で2回に1回は第三豊郷ビルの4階の一番奥の部屋(407号室)に宿泊していた(甲51、甲76、甲95)。
原告は病院から自転車で5分のところに居住していたため、帰宅できていた。
待機勤務者は1名で、呼び出し理由は脳梗塞(MRI検査)、心筋梗塞(心臓カテーテル)、急性膵炎(TV検査)等の人命に関わるものが主であり、入電には遅滞なく気付く必要があり、平成27年当時は必ず駆けつける必要があった(甲23、甲91)。
原告の呼び出しの頻度については、平成27年1月から7月の間に17回の待機中に11回とそれ以外で1回となっている。(厳密に評価期間でいうと16回中9回+1回の呼び出しである)(甲23)
待機勤務は、電話を受ければ相当の対応をすることを義務付けられていたのであるから、原告が相当の対応をする必要が生じることが皆無に等しいなど、実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情は存在しないというべきである。
上記待機時間は、労働からの解放が保証されていたとは言えず、雇用契約上の役務の提供が義務付けられていたと評価できる。原告は、待機勤務を担当した日は、その業務に従事した時間はもとより、待機時間も含めて病院の指揮命令下に置かれていたものであり、これは労働基準法上の労働時間に当たるというべきである(甲46参照)。
待機時間は勤務のある日は待機入り日の退勤時刻から待機明け日の出勤時刻までである。
勤務のない日の待機勤務は、開始は8:30、終了は翌8:30である。
病院関係者Jは被告からの聴取で「部署内の取り決めで待機の時に午前0時を過ぎて呼び出された場合は、翌日の午前中は半日休むことになっています」と証言しているが(正確には「翌日の午後から」の間違いである。実際には勤務配置の関係で帰れない日もあった。)そもそも本件評価期間中において原告の勤務とは無関係である(甲60)。
待機勤務が労働基準法上の労働時間に当たるか否かについては裁判例上も個別具体的な事情に即して判断が分かれるところであるが、心理的負荷はあったと言えるから業務起因性を判断する上での労働時間と判断されるべきである(甲43、甲44の引用する裁判例参照)
以下に待機勤務の呼び出し表を示す。(日付の平成27年は省略する)
表3 待機勤務日と実労働時間
| 待機日 | 勤務時間1 | 勤務時間2 |
|---|---|---|
| 1月1日~1月2日 | 23:00~0:00 | 6:20~7:20 |
| 1月30日~1月31日 | ||
| 1月31日(当番外) | 14:15~15:15 | |
| 2月3日~2月4日 | ||
| 2月11日~2月12日 | 10:00~11:00 | 12:45~18:20(2件連続) |
| 2月14日~2月15日 | 16:10~16:30 | 19:30~20:30 |
| 2月21日~2月22日 | ||
| 3月14日~3月15日 | 20:00~21:00 | 3:00~4:45 |
| 3月18日~3月19日 | ||
| 3月27日~3月28日 | ||
| 4月8日~4月9日 | ||
| 4月18日~4月19日 | ||
| 5月27日~5月28日 | ||
| 5月30日~5月31日 | ||
| 6月6日~6月7日 | ||
| 6月11日~6月12日 | 21:45~22:45 | |
| 6月19日~6月20日 | ||
| 7月3日~7月4日 | 1:40~2:20 | |
| 7月16日~7月17日 |
(8) 宿日直勤務の労働時間性について
労働基準法41条3号は、監視又は断続的労働に従事する者で使用者が行政官庁の許可を受けたものについては、同法第4章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しない旨を定めている。
一方、労働基準法施行規則23条は、使用者は、宿直又は日直の勤務で断続的な業務について所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合は、これに従事する労働者を法32条の規定にかかわらず使用することができると定めている。
そして、上記規則により適用が除外されるのは、法32条に限られるものではなく、労働基準法上のその他の労働時間に関する規定、休憩や休日に関する規定も含まれる。
上記労働基準法41条3号の監視労働とは、原則として一定部署にあって監視するのを本来の業務とし、常態として身体又は精神的緊張の少ないもの、断続的労働とは、休憩時間は少ないが手待ち時間は多いものをいうと解されるところ、これらの労働は労働密度が薄く、精神的肉体的負担も小さいことから、当該労働時間は、全て使用者の指揮命令下にある労働時間であることを前提とした上で、所轄労働基準監督署長の許可を受けることを条件として、労働基準法32条その他同法上の労働時間に関する規定、休憩や休日に関する規定の適用を免れるとしたものと解される。
厚生労働省労働基準局長は、平成14年3月19日、医療機関のうち救急医療を行う一部の医療機関において、宿日直勤務中に救急医療等の通常の労働が頻繁に行われているなど、断続的労働である宿日直勤務として取り扱うことが適切でない例などが少なからず認められ、これに係る問題について労働基準監督機関に対する申告が散見されるとともに、報道機関においても取り上げられるなど、社会的な問題として顕在化しつつある状況にあるとの認識の下、都道府県労働局長に対し、「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について」と題する通達(基発第0319007号)を発するとともに、社団法人日本病院会長らに宛てて、「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について(要請)」と題する要請(基発第0319007号の2)を発した(甲68、甲69)。
労働行政においては、医療機関の宿日直業務は、原則として診療行為を行わない休日及び夜間勤務につき、病室の定時巡回、少数の要注意患者の定時検脈など軽度又は短時間の業務のみが行われている場合に、労働基準法41条3号の断続的業務たる宿日直として取り扱い、その許可を与える方針であった。
断続的業務が労働基準法の労働時間等に関する規定の適用を免れるのは、これらの労働の労働密度が薄く、精神的肉体的負担も小さいからである。
病院の宿日直許可書(甲20・4枚目)は、「宿直 開始17時00分より前に勤務に付かせないこと」「宿直 終了8時30分より後に勤務に付かせないこと」「日直 開始8時30分より前に勤務に付かせないこと」「日直 終了17時00分より後に勤務に付かせないこと」との付款が付されている。原告が命じられている宿直は通常勤務と連続して原則29時間であり、一部原告が自ら有給休暇等を取得し翌午前中に帰る日も認められるものの、病院として通常勤務と連続しない配慮がなされておらず、日曜祝日についても日直と宿直を同日に連続して行っている(甲19、甲20、甲24、甲73)。附款に反した運用をしている。
睡眠設備に関して病院は診療放射線技師には和室6畳2部屋がある旨申請している。この部屋は第三豊郷ビルの406号室と407号室のことである。(甲20、甲76)
当該和室は平成27年当時、406号室は更衣室、407号室は自宅が遠い待機勤務者が宿泊するための部屋として使用されており、実際には宿日直担当技師は非常口ランプが常に灯り、機械のファンの音が響く放射線部内のソファーにて就寝していた(甲6、甲51、甲76)。
待機勤務者が宿泊していない場合であっても業務の頻度と移動の不便さから、宿日直担当技師は、誰も当該和室を使用していなかった。(部屋が4階であることもさることながら、夜間は救急外来入口以外施錠されており、救急外来入口を出て第三豊郷ビルに行くには相当回り道になる)(甲95)。
病院は、就寝のための設備を設けていたはいえない。
病院の診療放射線技師の宿日直勤務は、名古屋東労働基準監督署長が断続的な宿直又は日直として許可を行った際の附款を守っていなかった。
名古屋東労働基準監督署長が病院に宿日直勤務の許可を与えていたからといって、そのことにより、原告の宿日直業務が労働基準法41条3号の断続的業務に該当するといえない。また、上記許可の存在していても、病院における宿直日直業務は断続的業務に当たらない。
労働内容についても検査実施記録などから一般撮影、単純CT、造影CT、MRI、カテーテル検査、透視検査などを行っていたことが分かる。上記の各検査は、いずれも診療放射線技師としての通常業務である(甲11~甲16、甲23、甲24、甲91)。
病院の診療放射線技師の宿日直勤務は、軽度又は短時間の業務であるなどとはいえない。
宿日直担当技師は、業務を実際に処理する時間以外の時間においても、院内PHS圏外への移動を禁じられており、入電があれば即座に相当の対応をすることを求められていたのであるから、宿日直業務から離れることを保障されているとはいえない上、病院の診療放射線技師らは平成27年当時も、その勤務の実態は前記のとおりであり、同診療放射線技師らは、上記宿日直勤務時間の全体にわたって、使用者である病院の指揮命令下に置かれていたというべきである。
原告の宿日直勤務は、その勤務時間の全体が労働基準法上の労働時間に当たるというべきである。
厚生労働省労働基準局長要請によれば、名古屋東労働基準監督署長が、平成5年11月25日付けで、病院に対して与えていた断続的な宿直又は日直勤務の許可は、本来、取り消されるべきものであった(甲20)。
原告の宿日直勤務については、勤務時間の全体が労働基準法上の労働時間に当たるというべきである。(判旨:平成21年(行コ)第81号 大阪高裁平22.11.16判決)
(9) タイムカードに打刻がない出勤退勤時間や労働時間について
ア 平成27年1月11日~12日の出勤と退勤
この日は休日宿日直である。(甲24の2頁3頁)
勤務開始は8:30の定時に更衣時間を考慮した8:25とすべきであり、退勤は定時の翌8:30に病院関係者Aへの宿日直報告と更衣時間を加味した8:40とすべきである。
イ 平成27年1月17日の退勤
タイムカードを先に打刻した日である。
14:00まで超過勤務申請しており、14:00に更衣時間を加えた14:05退勤とすべきである。(甲23の10頁)
ウ 平成27年1月22日の退勤
この日は半日有給を取得している。
放射線部では午後休暇の場合は13:00からとなっている。(甲32)
これに更衣時間を足した13:05退勤とすべきである。
エ 平成27年1月31日の退勤と緊急登院
この日は土曜勤務であり13:30までの残業の後、一度帰宅しているので、更衣時間を含めた13:35を退勤時刻とすべきである。(甲23の10頁)
その後当番外ながら緊急心臓CT撮影と処理の呼び出しを受けて14:15~15:15に業務を行っている。(甲23の10頁)
オ 平成27年2月8日~2月9日の出勤と退勤
この日は休日宿日直である。(甲24の4頁5頁)
勤務開始は8:30の定時に更衣時間を考慮した8:25とすべきである。退勤は最終撮影時刻の9:34に更衣時間を加味した9:39とすべきである。
カ 平成27年2月11日の出勤と退勤
この日は休日待機勤務である。(甲23の11頁)
10:00~11:00に呼び出しを受け勤務し、帰宅後再度呼び出しを受けて12:45~18:20にかけて勤務している。(甲23の11頁)
待機呼び出しは白衣を羽織るだけで良いとされており更衣はない。
キ 平成27年2月14日の退勤と緊急登院
この日は土曜日勤務+残り番+待機勤務である。
14:25にタイムカード打刻であるが15:00まで超過勤務が申請されており、退勤時刻はこの時刻に更衣時間を加味した15:05である。(甲23の11頁)
その後16:10~16:30と19:30~20:30の2回呼び出しを受けて業務を行っている。(甲23の11頁)
ク 平成27年3月3日~4日の退勤
この日は日勤から宿直であり、宿直明けに半日有給を取得し午前中に帰宅している。
3月4日の検査記録によると8:56に最後の撮影を終了していることから、その後に病院関係者Aへの宿日直報告と更衣の時間を加味した9:06を退勤とすべきである。(甲83の3頁)
ケ 平成27年3月8日~9日の出勤と退勤
この日は休日宿日直である。
3月8日は定時の8:30に更衣時間を考慮した8:25が始業時刻であり、退勤時刻は3月9日の最終検査時刻である10:25に更衣時間を加味した10:30とすべきである。(甲83の3頁)
コ 平成27年3月14日の退勤と緊急登院
この日は土曜日勤務+残り番+待機勤務である。
タイムカード打刻時刻である15:39に更衣時間を加えた15:44が退勤時刻である。
(甲19)
その後緊急登院によって20:00~21:00に業務を行っている。(甲23の14頁)
サ 平成27年3月15日の緊急登院
緊急登院によって3:00~4:45に業務を行っている。
書証には曜日は正しいが日付の書き間違いがある部分である。(甲23の14頁)
シ 平成27年3月24日~25日の退勤
宿日直日の退勤打刻がないが、検査記録からも定時である25日の8:30から宿日直報告を済ませた後に更衣し退勤したと考えられ、8:40退勤とするのが妥当である。(甲23の14頁)
ス 平成27年4月5日~6日の出勤と退勤
この日は休日宿日直日である。
定時の8:30に更衣時間を加味した8:25を始業とすべきである。
退勤は定時の8:30に宿日直報告と更衣時間を加味した8:40とするのが妥当である。(甲23の15頁)
セ 平成27年4月18日の退勤
この日は土曜日勤務と残り番と待機勤務である。
超過勤務表から15:00に更衣時間を加味した15:05を退勤とするのが妥当である。(甲23の16頁)
ソ 平成27年5月6日~5月7日の出勤と退勤
この日は休日宿日直日である。
定時の8:30に更衣時間を加味した8:25を始業とすべきである。
退勤は定時の8:30に宿日直報告と更衣時間を加味した8:40とするのが妥当である。(甲23の17頁)
タ 平成27年5月14日~5月15日の退勤
この日は日勤+宿直日である。
退勤は定時の8:30に宿日直報告と更衣時間を加味した8:40とするのが妥当である。
(甲23の17頁)
チ 平成27年5月21日の退勤
この日は日勤である。
打刻忘れであるが、この日はCTを担当していることからCTの再起動も定時直後に行っているはずであり、再起動には20分を要するので、それに更衣時間を考慮した17:55退勤とするのが妥当である。(甲7、甲15、甲92)
ツ 平成27年6月3日~6月4日の退勤
この日は日勤+宿直日である。
退勤は定時の8:30に宿日直報告と更衣時間を加味した8:40とするのが妥当である。
(甲23の19頁)
テ 平成27年6月5日の出勤
この日は日勤である。
打刻忘れであるが8:10開始の朝会議には出席していることから、それに更衣時間を加味した8:05とするのが妥当である。(甲84)
ト 平成27年6月11日の緊急登院
この日は日勤+待機勤務である。
20:56の打刻時刻に更衣時間を加味した21:01が終業時刻であり、その後すぐに呼び出しを受けて21:45~22:45に業務を行っている。(甲19、甲23の19頁)
ナ 平成27年6月14日~6月15日の出勤と退勤
この日は休日宿日直日である。
定時の8:30に更衣時間を加味した8:25を始業とすべきである。
退勤は定時の8:30に宿日直報告と更衣時間を加味した8:40とするのが妥当である。
(甲23の19頁20頁)
ニ 平成27年6月25日~6月26日の退勤
この日は日勤+宿直日である。
退勤は定時の8:30に宿日直報告と更衣時間を加味した8:40とするのが妥当である。
(甲23の20頁)
ヌ 平成27年7月4日の緊急登院
7月3日退勤後から7月4日始業時刻までの待機勤務による緊急登院として1:40~2:20に業務を行っている。(甲23の21頁)
ネ 平成27年7月12日~7月13日の出勤と退勤
この日は休日宿日直日である。
定時の8:30に更衣時間を加味した8:25を始業とすべきである。
退勤は定時の8:30に宿日直報告と更衣時間を加味した8:40とするのが妥当である。
(甲23の21頁)
(10) 始業時刻
被告は、午前8時10分から朝会議があることを認めており、またその前に朝準備があることを認めている。それにもかかわらず、CTの検査実施時刻を始業時刻とすることには矛盾がある。
病院関係者Jの証言にもある通り、原告は日勤時に午前8時頃に放射線部に到着している(甲60)。
その証言は原告のタイムカード記録ともほぼ一致しており、更衣時間を考慮したタイムカード打刻時刻の5分前が始業時刻である。
(11) 終業時刻
基本的にタイムカード打刻時刻に更衣時間の5分を足した時刻である。最後の撮影終了後以降、原告はCTを担当した日は毎日、64列CT再起動を命じられており、これには20分を要する(甲7、甲92)。
そのため当直者と緊急撮影を止めるタイミングを調整する必要があり、原告は業務を手伝いながら過ごし、再起動が完了しテスト撮影をした後にエラーがでないことを確認してから帰ることが日課であった(甲7、甲19、甲92)。
(12) 小括
原告の労働時間は、総じてみると(8)に示す通り宿日直時間も全て労働時間であることから、タイムカード打刻時刻の前後に更衣時間5分ずつを加味した時間(宿直明け時は報告時間も加味する)を基礎とし、(9)のア~ネの各事例を考慮の上、(7)に示した日については待機時間も労働時間に加味した時間が、原告の労働時間である。
さらに(6)に示す休憩が削減された時間を加味するのが原告の正確な労働時間である。
そうすると原告の労働時間は優に100時間を超える月が存在する。その心理的負荷は労働時間だけで「中」といえる。
表4 原告の時間外労働時間
| 待機勤務を含まず | 待機勤務を含む | |
|---|---|---|
| 6か月前 | 87:58 | 134:50 |
| 5か月前 | 103:29 | 145:08 |
| 4か月前 | 79:24 | 117:29 |
| 3か月前 | 76:57 | 88:54 |
| 2か月前 | 89:14 | 148:34 |
| 1か月前 | 77:14 | 104:12 |
*上記表は甲21、甲22の計算表に退勤時の更衣時間と宿直明け時の報告時間を加え、さらに一部誤りを修正して再集計したものである。
4 2週間以上の連続勤務について
(1) 認定基準についての補足
認定基準では、出来事の起点が発病の6か月より前でも、その出来事 (出来事後の状況 )が継続している場合にあっては、発病前おむね6か月の間における状況や対応について、心理的負荷を評価するものとしている。
(2) 平成27年1月5日~平成27年1月17日について
原告の宿日直業務は項目3(8)で述べたように全ての時間において労働時間である。よって定時に更衣時間を加算した平成27年1月11日8:25から定時に宿日直報告と更衣時間を加算した平成27年1月12日8:40までが労働時間である。
平成27年1月11日~同年同月12日にかけての宿日直では24時間の拘束時間中に11時間10分の実労働を行っており、「宿日直の労働密度が低い」とは到底言えない(甲24)。
労働基準法35条における休日とは、労働義務がもともとない暦上の日のことを指すのが原則である。(昭和23年4月5日基発535号)。原告の宿日直勤務日は毎月シフトによって不規則であった。
これらのことからすれば、平成27年1月12日と13日の間も連続勤務というべきであり、心理的負荷が「中」の出来事であったというべきである。
(3) 平成27年3月8日~平成27年3月20日について
平成27年3月9日と同月10日は、被告の労働時間集計表によると勤務間インターバルが23時間10分程度ある。
(2)で述べた通り、休日があったとはいえない。平成27年3月9日の正確な退勤時刻は最終検査時刻である午前10時25分に更衣時間を加味した午前10時30分とすべきであることから、勤務間インターバルは21時間26分であり、休日とは言えない(甲83)。
平成27年3月15日の呼び出し勤務の労働時間が1時間45分であるが、この日は3:00から4:45までの勤務であり、本来睡眠に当てられるべき時間である。この時間に業務に従事したことは労働者の心理的負荷を高める要素であり、時間外労働の時間のみを個別に取り出して、その長短を論じることが相当とは思われない。
よって被告の反論には理由はない。連続勤務であったというべきであり、心理的負荷は「中」である。(甲43の裁判例参照)
(4) 待機勤務を含んだその他の連続勤務
平成27年2月8日ないし平成27年2月27日、同年4月13日ないし同年4月24日、同年5月27日ないし同年6月12日、これらは連続勤務の途中に緊急出動のなかった待機勤務を含んでいる。
待機勤務による心理的負荷は休日とは異なるものであるから、実際に緊急出動がなかったからといって即座に心理的負荷がなかったということはできず、(2)および(3)の二つの連続勤務の心理的負荷を補強する要素足り得るのである。
(5) 小括
平成27年1月5日ないし同年1月17日、同年3月8日ないし同年3月20日の連続勤務および他の待機勤務を含んだ連続勤務の心理的負荷は項目2で述べられている業務の密度や業務の内容も総合的に考慮すると「中」または「強」である。
被告は、上記の各連続勤務中の業務の内容が、あらかじめシフトで決まっているなど休日に対応すべき業務でなく通常業務の一環にとどまるものであったと主張するが、認定基準の具体的出来事13の項は、たとえ通常業務と同種のものであれ、労働者が休日をとることなく連続して勤務を行ったこと自体の心理的負荷を問うものと解されるのであって、たとえその後に振替休日を取得できたとしても、心理的負荷が弱いとは言えない。(甲43の裁判例参照)
5 仕事の内容や量の変化量について
(1) 認定基準について
認定基準の別紙「業務による心理的負荷評価表」の具体的出来事項目11の「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」の判断に当たって、認定基準では総合評価の視点が「業務の内容、困難性、能力・経験と業務内容のギャップ、職場の支援・協力の有無および内容等、時間外労働、休日労働の状況とその変化の程度、勤務間インターバルの状況等。業務の密度の変化の程度、仕事内容、責任の変化の程度、仕事内容の変化の原因に係る社会的反響の大きさ等」となっている(甲67)。
(2) 繁忙期と閑散期について
冬になると脳血管疾患や心臓疾患が増えることが知られており、半年や年1回のフォローアップのための造影3D撮影の件数が増加することから3D処理案件が増加し、CT撮影の総件数自体には大きな変化が無くても、時間外労働が増加する(甲8、甲23)。
撮影総件数などに顕著な変化は見られないが、時間外労働のみに着目すると発病8か月前は原告の入院があるため計算から除外するとしても、入院以前の閑散期と退院後の繁忙期とでは平均すれば20時間以上の残業時間の変化がみられ、その残業時間自体も45時間以上となっている。(甲19、甲21、甲22、甲47、甲73)
さらに、CTに関連する残業の50%ないし60%を原告が担当し、他の担当者は15%程度しか担当していないことからも職場の支援が少なかったというべきである(甲9、甲91)。
(3) 小括
病院関係者Bが休職したことと総合評価すれば、その心理的負荷は「中」程度はあったというべきである。
6 複数名で担当していた業務が1人になったについて
(1) 認定基準について
認定基準の別紙「業務による心理的負荷評価表」の具体的出来事項目18の「複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった」の判断に当たっては、認定基準では総合評価の視点が「職務、責任、業務内容、業務量の変化程度等、その後の業務内容、業務量の程度、職場の人間関係、職場の支援・協力の有無及び内容等」とされている(甲67)。
(2) 被告の主張
被告は、病院関係者Bが原告の64列CT業務を「手伝った」だけであるから複数名で担当した業務とは言えないと主張する。
(3) 原告の反論
16列CTでの病院関係者Bの業務について、休職の前後を見てみると、16列CTでの撮影が連続している時間帯や日が散見されるものの、病院関係者Bの16列CT業務には、ある程度の時間の空白が存在する(甲10)。
病院関係者Bは、1日に何度も16列CTと64列CTを往復していた。病院関係者Jは「サブの装置の方が検査件数が少ないので、これまで原告さんは病院関係者Bさんの手が空いているときは手伝ってもらうことができました」と証言しており、病院関係者Iも「サブのCTは非常勤職員の病院関係者Bさんが担当していましたが、サブのCTは急患などの突発的な検査に使うだけでした」と証言している。(甲59、60)
また病院関係者Bは身体障害者4級であり、左手では紙を掴む程度しかできず、基本的にはCTに関する業務しか行っていなかったこと(評価期間中には数日TV3を行っていることも確認できる)。病院関係者Bによる16列CTの検査実施記録上の空白時間は、勤務配置表上CTの担当日は64列CT業務を手伝っていた(甲27、甲32~甲38)。
原告は、病院関係者Bが1日当たりに何分程度64列CT業務に従事し、何分程度16列CTに従事していたのかを甲27にあるCT使用率からの推定ではなく、甲10より厳密に集計し表にまとめた(甲10、甲27、甲32~甲38)。
病院関係者Bは非常勤職員であり、勤務時間は9:00から17:00で休憩時間は1時間であり、(労働時間は7時間=420分)勤務配置表からCT以外の業務についている時間は計算対象から除外した(甲32~甲38)。
表5 病院関係者の1日における64列CTと16列CTの平均従事時間
| 日付 | 64列CT(分) | 16列CT(分) |
|---|---|---|
| 平成27年1月 | 272 | 148 |
| 平成27年2月 | 0 | 0 |
| 平成27年3月 | 0 | 0 |
| 平成27年4月 | 325 | 95 |
| 平成27年5月 | 299 | 121 |
| 平成27年6月 | 279 | 141 |
| 平成27年7月 | 323 | 97 |
表5より平均すると病院関係者Bは、一日420分間CTを担当した場合、そのうち300分の時間を原告と共に64列CTに従事していることが分かる。
原告は項目2(4)および(6)において、病院関係者Bの64列CTの従事割合から64列CTの従事人数を1.625人(原告の所定労働時間8時間中5時間を一緒に64列CTに従事)と仮定し、原告の業務量が全国の平均的診療放射線技師の何人分の業務量があるかを推定している。
その結果、原告は平成26年4月から平成27年7月の病院関係者Bが在職していた期間において1.73人から2.92人分(項目2(6)の表より)の撮影件数を行っているが、被告のいう病院関係者Bは「手伝っていたにすぎない」の場合は64列CTの従事人数は1.625人を下回るということであり、原告の病院関係者B在職時の業務負担というのはこれらより大きくなる。(甲8の6頁)
つまり項目2の達成困難なノルマが課せられたことも否定し、複数名で担当していた業務であることも否定する被告の主張は、矛盾している。
そして病院関係者Bが休職した時は項目2(6)の表からわかるように2.73人~4.50人分にまで業務が増えている。よって業務負荷が明らかに増えていると言える。
(4) 小括
病院関係者Bが在職しているときは全国平均の1.73人から2.92人分だった業務負荷が、病院関係者Bの休職によって2.73人から4.50人分に増えていることから、その心理的負荷は「中」であると言える。
7 顧客や取引先から対応困難な注文や要求等を受けたについて
(1) 認定基準について
認定基準の別紙「業務による心理的負荷評価表」の具体的出来事項目9の「顧客や取引先から対応が困難な注文や要求を受けた」の項目の心理的負荷の総合評価の視点は、「顧客・取引先の重要性、注文・要求、指摘の内容、会社の被る負担・損害の内容、程度等、事後対応の困難性、その後の業務内容、業務内容の程度、職場の人間関係、職場の支援・協力の有無及び内容等」となっている。(甲67)
ここでいう「要求等」とは、契約に付帯して商習慣上あり得る要求や、納品物の不適合の指摘をいう。また顧客からの指摘等が本人のミスによる場合は、項目4で評価し、顧客等の行為が著しい迷惑行為に該当する場合は項目27で評価することとなっている(甲67)。
(2) 右心房血栓の撮影に失敗に対する「クレーム」について
平成27年1月16日、撮影失敗後に依頼医師から、「撮影した画像では右心房血栓の評価ができないだろ?誰が患者に謝ると思っとるんだ」という旨の指摘を受けた(甲4の9頁、甲28・2頁)
このあと、装置メーカーの撮影教示者から混合注入による撮影を提示されたが、その撮影方法は当時から現在に至るまで研究論文段階であり、一般的な撮影法としては普及していないものであった(生理食塩水を後押しして右心系があまり見えない代わりに左心系と冠動脈を綺麗に描出する方法が心臓CTでは一般的)うえ、混合注入をやったことのない原告にとっては難易度が高かった(甲79)。また提案された研究論文段階の撮影方法を行うには、依頼医師だけでなく読影や撮影方法に決定権のある放射線科医師や病院関係者Aの説得説明など内部の調整と造影剤注入器メーカーの協力も必要であった。対応困難な要求に対して一定の労力を要した。
この「クレーム」は病院内の医師によるものであるが、医師と診療放射線技師の関係が、専門職と専門職との関係であり、一定の独立した者であることからすると、「顧客や取引先からの対応困難な注文や要求を受けた」に類似するので、この項目にあたる心理的負荷を受けたと評価するべきである。
(3) 平成27年5月19日の患者からのクレームについて
平成27年5月19日の患者からのクレームを受けた(甲28、甲4・13頁)。このことについては、甲28の2頁の図1の日報に「未受付のままCTの前で30分以上待たれた方がおり、患者さまからの指摘で発覚。担当者とリーダーとで謝罪を行ったが、激怒されてしまう事例がありました。」とある。
そのようなクレームを受けたこと、及びその後、病院関係者J、病院関係者Aに指導を受けたことにより相当程度の心理的負荷を受けた。
(4) 平成27年5月22日の依頼先からのクレームについて
平成27年5月22日の、CDが間違っていたことについて責任を取らされることがあった(甲28、甲4・13頁)。甲28の2頁の図2の指導記録に「CDの焼き間違いが、依頼先の指摘により発覚」の記載があることから事実であることは間違いない。
原告は電話で依頼先クリニックに謝罪し訪問日程の調整や報告書等の作成を行っており、相当の心理的負荷があった(甲4の11頁、甲28)。
(6) 小括
被告は、「原告が主張するクレーム等について具体的内容が明らかでなく、クレーム等があったことの客観的裏付けもないことから、そのような出来事があったことを前提として、その心理的負荷を評価することが困難である」と主張するが、その内容は、甲4、甲28で明らかであるし、その裏付けも、原告が引用している日報、指導記録によって存在する。
日頃の過密過度な業務の中で受けた上記のクレーム等は、相当に心理的負荷になった。よってこれらを総合的に判断すると、その心理的負荷は「中」である。
8 感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事したについて
(1) 認定基準について
認定基準の別紙「業務による心理的負荷評価表」の具体的出来事項目14の「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」の項目の「心理的負荷の総合評価の視点」には、「業務の内容・困難性(ばく露のおそれがある病原体・化学物質等の有害因子の性質・危険性等を含む)、能力・経験と業務内容のギャップ、職場の支援・協力(教育訓練の状況や防護・災害防止対策の状況等を含む)の有無及び内容等、当該業務に従事する経緯、その予測の度合い、当該業務の継続期間等」とある(甲67)。
(2) 嘔吐物処理や結核その他感染症対応について
原告の病院は総合病院であるので、当然に新型コロナウィルス感染症(COVID19)が流行する前から一定数は結核などの空気感染疑いへの対応やその他接触感染の感染症への対応、逆に抵抗力の低い患者にこちらの常在菌感染を起こさせないための防護対応などは日常的にあることであり、結核が撮影後に発覚し、接触者リストに載ることはCT専従業務従事者として珍しいことではなかった。
記録にある範囲では平成27年4月23日の朝会議では耐性緑膿菌患者の発生と注意喚起がなされている(甲52)。
また検査中に嘔吐される場合も珍しくなく、その場合すぐに近くの看護師を呼び、患者のバイタルチェック等は任せ、嘔吐物の処理は看護師と一緒に行っていた。
医療現場において嘔吐物は感染性のある体液として扱われ、結核対応の具体的回数は不明であるが、業務量から平均的診療放射線技師の少なくとも2倍はあった蓋然性が高く、嘔吐物対応は少なくとも、平成27年4月1日(甲56の図1の一番下の欄)、同年5月12日(甲31・1頁図1)、同年6月5日(甲31・2頁図2)の3回確認できる。
(3) 鉛ガラス窓強度不足によるX線被ばくについて
放射線管理区域はその境界において、1.3mSv/3か月以下であることと厚生労働省によって定められているところ、実際に病院では4.0mSv/3か月の環境にあったと認めることができる(甲4、甲31)。
本来であれば原告が入職する以前の装置設置時から、この値は順守されるべき値であり、また保健所に報告すべき半年に一度の漏洩線量測定においても病院は故意にそれを改ざんしていたのであるから、本件放射線漏れのある環境での業務に従事することは、原告にとって到底予測できないことであったといえる(甲4の23頁24頁)。
また病院関係者Aに鉛ガラス窓を改修してほしい旨を相談した際にはこれを拒絶された。(ただし、この病院関係者Aとのやり取りを示す客観的証拠はない。)甲4・23頁の写真の漏洩線量測定日は令和2年であり、このころまで、この件に関して改善はなかった。
さらに原告が放射線漏れに気付いてから発症まで約4か月、それまでの期間も含めれば合計約2年の間、CT専従業務に従事したのであるから、原告は、長期間被ばくについて不安に感じていた。
被告は「X線被ばくについては、原告自身が被ばく量としては多くないと述べている」ことを理由としてその心理的負荷を「弱」と主張している。
確かに被ばく量だけを見れば、ただちに生物学的影響があるものとは言えないかもしれないが、しかし認定基準の項目14は、心理的負荷の総合評価の視点によれば、生物学的影響の有無のみに着目した項目でない。
がんや遺伝性影響では、影響の現れ方が確率的であり、また現在の放射線防護では、低線量域でも直線しきい値なし(LNT)モデルを適用しているので、安全と危険を明確に区分することはできず、どんなに小さくとも有限のリスクがあるものとして、「リスクを容認できる」ことを基準に、防護のレベルが考えられている。
これが放射線防護の原則として「正当化」「防護の最適化」「線量限度の適用」が重要であると考えられる基盤になっていることは公知の事実である。
また2023年INWORKS報告は、固形がん死亡に関する「線量効果関係」は、50mSv以下でも「閾値なし直線関係」であることが統計的に有意に示された(甲89)。厚生労働省労働基準局補償課は令和6年4月2日、この報告について「当該報告は、仏・英・米の3カ国の原子力施設作業従事者約30万人を対象とした、電離放射線被ばくと固形がんによる死亡に関する疫学調査であり、低線量被ばくにおいて、累積被ばく線量の増加と固形がんによる死亡リスクとの間に、一定の相関関係があることを報告しているものと認識しています。」と回答している(甲89参照)。
また東日本大震災における低線量放射線被ばくとストレスに関する論文においては、空間線量率そのものというより、放射線源への近さなどの方がストレスに影響していることが示唆されている(甲80)
当該業務への従事することの予測のできなさや、職場の支援等がないことから、その心理的負荷は「中」であると言える。
(4) 院内暴力事案コードホワイトへの対応
コードホワイトとは院内暴力事案発生時の緊急呼集であり、この呼集があった場合には男性職員は駆けつける決まりとなっている(甲88)。
原告は、平成27年7月8日23:30頃の宿直中に発令されたコードホワイトに対応した。これは、原告にとって初めてのコードホワイトであった。
原告は、夜間なので男性職員は少ないから無視はできないと考えて、すぐに現場に駆け付けると、殴られた事務職員1名を看護師が氷水で介護しており、警備員、宿直の臨床検査技師、原告で暴れる男性と少し距離を取りながら取り囲んだ(甲23の21頁「2015年7月」「8日」「コードホワイト対応」、甲4の12頁)。
暴れる男性が移動すると取り囲むように3人で移動し、「落ち着いてください」「殴ったらダメですよ」とかを言いながらなだめて、何度か怒りの波をやり過ごし、結局50分から1時間程度対応した(甲23の21頁)。
暴れる男性は、待合の椅子を蹴飛ばしたり、会計カウンターを叩くなどしていた。最終的に最初の事務職員以外は直接的な暴力を振るわれなかったものの、怒りの矛先がいつ原告に向くかわからず、殴られる危険性はあった。
原告は職場から特別な訓練や対応研修等を受けたことはなく、現着するまで凶器の有無もわからず、さすまたなどの保安用具もなかったので、不安を感じた。
原告が入職から休職までの9年1か月の間でコードホワイトを聞いたのは、本件を含めて2回であり、本件以外のもう1回は日勤帯であったこともあって、病院関係者Gに止められて駆けつけていない。
よって、当該業務への従事することの予測のできなさや、危険性そのもの、職場の支援等も総合的に考慮すれば、その心理的負荷は「中」であると言える。
(5) 小括
(2)から(4)について総合的に判断すると、その心理的負荷は「中」であると言える。
9 業務に関連し違法な行為を強制されたについて
(1) 認定基準について
認定基準の別紙「業務による心理的負荷評価表」の具体的出来事項目6の「業務に関連し、違法な行為や不適切な行為等を強要された」の心理的負荷の総合評価の視点は、「違法性、不適切の程度、強要の程度(頻度、方法、本人の拒否等の状況との関係)、本人の関与の程度等・事後のペナルティの程度、事後対応の困難性、その後の業務内容・業務量の程度、職場の人間関係、職場の支援・協力の有無及び内容等」となっている(甲67)。
また心理的負荷が「強」となる例については、「業務に関連し、重大な違法行為(人の生命にかかわる違法行為、発覚した場合に会社の信用を著しく傷つける違法行為)を命じられた・業務に関連し、反対したにもかかわらず、違法行為等を執拗に命じられ、やむなくそれに従った・業務に関連し、重大な違法行為を命じられ、何度もそれに従った・業務に関連し、強要された違法行為等が発覚し、事後対応に多大な労力を費やした(重いペナルティを課された等を含む)」とされている(甲67)。
(2) 不正会計について
平成25年7月に原告は約半年の専門的研修を受けた後CTの担当者として専従的に業務を担当した。(甲5の5頁)
管轄厚生局に届け出が必要なCT専従業務従事者の登録は、平成25年7月当時は病院関係者Hが登録されていた。しかし、病院関係者Hに代わって原告が専従業務に従事していた。その期間の検査実施者は、実際には原告であるが病院関係者Hとするように改竄指示を病院関係者Aから受けていた。
具体的には病院関係者Hが関わっていない撮影を病院関係者Hが撮影したように検査実施記録の名前を書き換えた(甲5の8頁~11頁)。
また検査実施記録の名前を書き換えた状態で実施コマンドを押すとそれが電子カルテに自動的に反映される仕組みとなっていることから、事実上の電子カルテ記録の書き換えである。
また間違えて原告自身の名前で実施すると病院関係者Hや病院関係者Jによって修正の指示が入り、見かけ上、病院関係者Hが専従業務をしていると見えるようにするように求められていた。
平成25年当時、原告は朝会議への出席権すらなく、部署の方針や指示に対して到底逆らえる立場ではなかった。
また当時役職の地位にあった、病院関係者D、病院関係者E、病院関係者F、病院関係者G、病院関係者Jは、この事実を把握しながら黙認していた(甲5)。
(3) 不正会計が事実であるかどうかについて
原告は不正会計による詐欺罪や電磁的記録不正作出罪の刑事時効が成立し始めた令和2年8月頃に警察に相談し、原告に最初に指示をした病院関係者Aがその時点で故人であることを理由に事件化しないと言われた後、患者らに返金はされるべきと考え、内部告発をしている。
その後、病院は原告が提出した資料を確認し、令和2年12月4日、原告は病院関係者Lや病院関係者Sから事実であることを確認した旨の報告を受けた。
これについて病院関係者Lは「事実確認のところの一番大きなところは原告の言われる、ようするに病院関係者Hが、あの実際に撮ってないCTに対して、あの~まぁ病院関係者Hの名前で書いてるものがね、あの~要するに矛盾というところが例えばその日の勤務者とか、その時に病院関係者Hが何をやってたかとかっていったときに、やっぱりそういう矛盾は絶対にあるので、あのまずあの原告が言われていることがね、まずあのまぁ正しいと正しいというかまずそういうことはあったよと。で、それに関してどういうところからの指示命令系統でどういう経緯でそういうふうになったというところに関しては、その大変申し訳ないんだけれども、おそらくね、おそらく当時の技師長が指示を出していたとは思うんだけど、もうそのへんのところが、やっぱりその本人が居ないので」と証言している。(甲3、甲5の21頁)
(5) 原告の受けた心理的負荷と精神障害発病との関係
原告は、平成25年7月から平成26年3月にかけて病院関係者Aから反対したにもかかわらずCT撮影者の改竄の指示を受けて、それを実行していたものである。(不正成立時期は平成25年8月から平成26年1月)(甲5)
この行為は「業務に関連し違法な行為を強要された」の項目に該当し、その心理的負荷は「強」に該当する出来事である。
この行為自体は評価期間より相当前である。
しかし、原告は、刑事罰は受けたくないが、不正に不利益を被った患者らには返金されるべきと考え、刑事時効の成立開始を待って警察に相談し、内部告発も行っている。(甲5)
原告は、刑事訴追を受ける可能性があった令和3年1月29日までの期間中、持続して罪悪感を抱いていた。
(6) 罪悪感についての補足説明
罪悪感は、うそをついたとき、人を傷つけたときなどさまざまな状況で経験される(甲74)
辞書的に“罪悪”とは、“道徳や宗教の教えなどにそむく行い”悪事”という意味である(広辞苑)(甲74)。英語の訳語としては、guiltが相当する(甲74)。
guilt(罪悪感)とは、後悔、良心の呵責、悪いことをしてしまったことへの失望を意味する(Tangney、Wagner、 Fletcher、 & Gramzow、 1992)(甲74)。
罪悪感を経験すると、一般的には特定の宗教、道徳上の罪(transgression) に関して脅迫的に考え、違った行動をとるべきであったと思い、できることなら自己の行いをやりなおしたいと思う(Tangney、Burggraf、 & Wagner、 1995)(甲74)。
さらに、guiltは何らかの方法で、ある標的に対して起こった害(harm) をやり直す行動を動機付ける可能性がある(Baumeister、Stillwell、 &Heatherton、 1994)(甲74)。
精神病理との関連として、1970年代以前の精神分析的理論では、罪悪感は道徳性の発達の重要な要因と考えられ、攻撃性を決定し、抑うつや神経症などの精神病理の重要な原因となると考えられていた(Freud、1924、 Klein、 1948)(甲74)。
Klein (1948) は、罪悪感は、憎しみ、ねたみ、恐怖の感情を感謝、抑うつ、弱い敵意へ変化させるとしている。1970年代以後、 Lewis(1971) やKohut(1971) を契機に、恥と精神病理の関係が強調されるようになった(甲74)。
Lewis(1971) によれば、恥は感情障害(特に、抑うつ)につながり、罪悪感は思考障害(たとえば、強迫神経症や妄想型分裂病(統合失調症))の原因となる(甲74)。
未分化の自己を持つ人は、全体的自己が傷つけられる恥を経験しやすく、最終的には抑うつを示す(甲74)。
対照的に、はっきりと分化した自己を持つ人は、特に自己と行動の分化が必要な罪悪感経験につながりやすく、自己から場が乖離することを警戒する強迫神経症と妄想型分裂病(統合失調症)につながる(甲74)。
このように罪悪感は精神障害の発病と関係があると考えられている。
(7) 小括
前記前提によると罪悪感は思考障害(たとえば、強迫神経症や妄想型分裂病(統合失調症))の原因となる可能性があるのであり、原告の本件疾病と一致し、影響を与えていたものと考えられ、不正による罪悪感は強いものであるから、心理的負荷は「強」と判断されるべきである。
10 業務に関連し重大な人身事故、重大事故を起こしたについて
(1) 認定基準について
認定基準の別紙「業務による心理的負荷評価表」の具体的出来事項目3の「業務に関連し、重大な人身事故、重大事故を起こした」の項目の「心理的負荷の総合評価の視点」は、「事故の内容、大きさ、重大性、社会的反響の大きさ、加害の程度、ペナルティ・責任追及の有無及び程度、事後対応の困難性、その後の業務内容、業務量の程度、職場の人間関係、職場の支援・協力の有無及び内容等」となっており、本人に過失がない場合もこの項目で検討することとなっている(甲67)。
この項目で心理的負荷が「弱」となるものは物損事故であり、人にケガをおわせた場合は「中」または「強」とされている。(甲67)
(2) 被告の主張
原告は、造影剤の血管外漏出事案と造影剤アレルギー事案について心理的負荷があったと主張する。しかしながら、当該出来事を裏付ける客観的な証拠はなく、当該出来事が存したことを前提として、心理的負荷の強度を評価することはできない(被告第1準備書面の67頁)。
(3) 二つの事案があること
平成27年2月10日に血管外漏出事案があった。このことは甲56で引用した事故事案の一覧表にあるとおりである。この甲56の事故事案の一覧は、病院の事故を起こしたときに記載するエクセル表を、原告が引用したものである。
血管外漏出事案の発生確率は0.3%ないし0.9%であると言われている。(甲56、甲75)
この事象の発生確率は稀ではあると評価することができ、造影剤注入前には逆血を確認し、安全であると認識したうえで検査を行っているのであるから、血管外漏出を予期することは困難であると言える(甲56)。漏出量が少なく、結果的に青あざ程度で済んだことは単なる偶然である。看護師と共に氷水で患部を冷やすなどの事後対応を行っている。これは大阪府立急性期・総合医療センターの「説明書」(甲75)にもある適切な処置である。
次に造影剤アレルギー事案では、特に平成27年3月5日の出来事(甲56)は、患者の血圧が60/29まで急変しており、重篤な造影剤アレルギー事案であった(甲56)。
この重篤な造影剤アレルギー事案の発生確率は0.004%ないし0.04%である(甲75)。
当然に原告は医師、看護師と協力し、事後対応にもあたっている。
この発生確率は特に稀と評価することができ、事前に医師がアレルギー確認も行っているのであるから、予期することは非常に困難であった。
原告は、上記のような事案が発生する可能性を知識として有していたが、ただちに想定できたトラブルではなかった。
(4)予期出来ない出来事によって心理的負荷を受けること
人は通常、予期しない出来事や稀な出来事に対してより強い反応を示す傾向がある。
これは、稀な出来事が予期されないため、その出来事に対する心の準備が不十分であると感じられることが一因である。
その結果、そのような出来事が発生した際に、人は驚きや不安、恐れなどの強い感情を経験する可能性がある。
事象の発生確率が低い場合、普段からその事象に対する心の準備をあまりしていない場合がある。
そのため、実際にその事象が発生した場合、その意外性や予期しなさによって、強い心理的負荷をうける可能性がある。
(5) 小括
これら二つの事案は、他人に負わせたケガの程度は重度ではないが、事後対応に一定の労力を要したのであり、その心理的負荷は「中」であると言える。
11 本件の事情
(1) 病院関係者Aの自死
平成29年6月17日に病院関係者Aは自ら命を絶っている(甲87の3頁)。
原告はおそらく自殺だろうと考えていたが、自殺であると確定的に知ったのは、令和2年7月に、病院関係者Gから聞かされたときである。
原告は、自殺の理由を「部署運営を苦にして」と病院関係者Gから聞いている。(甲87の3頁)
病院関係者Aが亡くなった後、その遺族は、病院関係者らが葬儀に出席することやお香典や弔電を送ることを拒否した。
(2) 原告の病気の報告と病院関係者Aの改心
原告は、平成28年6月上旬に病院関係者Aに原告が精神障害を発病したことを報告した。
病院関係者Aは、同年7月ないし9月頃より急に指導に際して威嚇や暴言などのパワーハラスメントをしなくなり、また他人の業務を積極的に手伝うようになった。それまでは周囲が忙しくても自分の仕事さえ終わっていれば優雅に珈琲を飲んだり、ソファーで腕組みをして座っていた。
病院関係者Aは、撮影者に偏っていたCTの残業も、平等に分担するように指示を出した。それまで病院関係者Aが帰るまで業務を続けることが暗黙のルールであったが、病院関係者Aは、定時になると自ら手を叩いて「急ぎの仕事のない者はあがれよ」と言うようになった。
1、2か月もするとこれらの効果は出始め、無駄に張りつめていた職場の雰囲気が良くなり、他人の仕事を互いに積極的にフォローし合う様な流れが生まれて業務がスムーズになった。その結果、部署としてのミスも劇的に減った。
(3) 病院関係者Aの苦悩
部署のメンバー構成としての中間層は、まったくおらず、病院関係者J以上のベテランと病院関係者H以下の若手だけである(甲53)。
それは病院関係者Aのパワーハラスメントが原因で、経験5年~10年程度で技術が成熟すると人が辞めていったからである。
病院関係者Aが、改心したことにより、部署の雰囲気は良くなったが、組織として中間層がいなかった。病院関係者Aは、組織を脆弱にしたのは自分自身であると気づいたこと、また原告を病気に追い込んだことに対する責任感により、苦悩したはずである。
原告のCT撮影ノルマは、経営陣が病院関係者Aに課したCT撮影ノルマでもある(甲97)。病院関係者Aは、平成28年10月19日、最新の320列CT導入プロジェクトを成功させるために、プロジェクトリーダーとして200件/月のCT撮影数増加を経営陣から求められている(甲87)。
このことを原告は病院関係者Aから知らされていなかった。
原告は平成29年3月末でCT専従業務を後任の病院関係者Qに引き継いだが、病院関係者Qは「こんな業務量マジ無理!」という趣旨の文句を頻繁に病院関係者Aや周囲に伝えていた(甲87)。
平成29年3月17日、次のCT専従業務従事者になることが病院関係者Qに伝えられた時にも、病院関係者Aは病院関係者Qに対し「決定事項に異論を唱えることのないように」と前もって指導している(甲87)。
病院関係者Aは、平成29年4月25日、「不平不満は指導対象だ!」と言って病院関係者Qの前記のような言論を封じたが、このことでさらに原告を病気に追い込んだことに対する責任感を強めたことと推測される(甲87)。
そして平成29年5月29日には病院関係者Aは病院関係者Qに対して陰口をしない旨を改めて指導している(甲87)。
病院関係者Jは、平成29年6月8日、病院関係者Aの異変を感じ取り、「放射線部のTOPとして今後のCT導入による体制作りなど悩み」と記載している(甲87)。
そして自死する数日前、病院関係者Aは院長室で去り際に病院関係者Lに対して普段はしないお辞儀を深々としたことを病院関係者Lは語っている。
自死する前日の平成29年6月16日は、ある消化器内科医の送別会で、原告は帰りの交差点で「じゃ、またな」と病院関係者Aに声を掛けられたのが最後となった。
(4) 病院関係者Aの性格と原告への期待
病院関係者Aは期待をかける人に強く当たる傾向にあった。
原告が入職した時に入れ替わりで退職転勤した技師はかなり優秀で、厳しく接されていた病院関係者Hや病院関係者Cに言わせても自分達以上に厳しく接していたという。
原告の採用はそもそも異例であった。岡山大学大学院に本件病院の求人案内は来ていない。にもかかわらず、学業成績や技師免許があったことから筆記試験免除で最終面接から呼ばれたほどである。そして緊張から面接時に自己紹介をし忘れるという重大なミスを犯した原告は、気づいてすぐに謝罪したことがあった。そのことを「非礼をすぐに詫びたところが気に入って俺が推した」と後に病院関係者Aが語っている。
また平成25年3月に原告は米国雑誌に大学院生時代の研究内容で、原著論文を発表している。
その際に病院関係者Aは「理事長もお褒めになっていたぞ。俺も技師長として鼻が高い」と述べている。
その後病院関係者Aより「お前は医学物理学会に入れ」と言われ入会した後、平成26年4月に医学物理士を目指すように最初の打診があった。
病院関係者Aが期待をしていないのに、病院の売り上げの8%を占めるような重要なCT専従業務というポジションを3年間以上も任せたりしないと考えるのが合理的である。
原告は、病院関係者Aに、期待されていた。このため、原告は、病院関係者Aのパワーハラスメントの対象になったのだと考えられる。
12 悪化に関する認定基準について
(1) 国・豊橋労働基準監督署長(マツヤデンキ)事件判決
国・豊橋労働基準監督署長(マツヤデンキ)事件高裁判決(名古屋高裁平成22年4月16日判決 判例タイムズ1329号121頁・労働判例1006号5頁)は、「少なくとも」「身体障害者であることを前提として業務に従事させた場合に、その障害とされている基礎疾患が悪化して災害が発生した場合には」「業務起因性の判断基準は、当該労働者が基準となる」として本人基準説を明確にした。
労働災害の事件で、控訴審で国が敗訴した場合、1999年以降、国は上告を行っておらず、その理由は上告する理由に当たらないからと説明されている(2010年2月25日衆議院予算第四分科会での山井厚生労働大臣政務官答弁)。
国・豊橋労働基準監督署長(マツヤデンキ)事件では、国が約10年ぶりに上告受理申立てをした。国が高裁判決を重く捉えたからと考えられる。
さらに、国は理由書で名古屋高裁の本人基準説を批判しなかった。
これは平均的労働者基準説を強調して最高裁がそれを否定するのを恐れたのではないかと考えられる。
そのような上告受理申立てに対する上告不受理の判決はそれ相当の重みをもって捉えるべきである。
(2) 自然経過超過増悪説に立った判決
これまで、最高裁は、①被災労働者の基礎疾患が確たる発症の危険因子がなくてもその自然の経過により脳・心臓疾患を発症させる寸前まで進行していたとは認められないこと、②被災労働者の従事した業務が同人の基礎疾患を自然の経過を超えて増悪させる要因となりうる負荷のある業務であったと認められること、③被災労働者には他に確たる発症因子があったとはうかがわれないことの三要素が認められれば、従事した業務による負荷が基礎疾患をその自然の経過を超えて増悪させ、脳・心臓疾患を発症させたと認めるのが相当であるとしている(平成9年4月25日判決(四戸電気工事店事件)、前記平成12年7月17日判決(東京海上横浜支店事件)、同日判決(大阪淡路交通事件)、平成16年9月7日判決(ゴールドリングジャパン事件)、前記平成18年3月3日判決(内之浦町教委職員事件)など)。
前記判決により、最高裁が、判断要素②に「急激に」増悪という要件を課さない、いわゆる「自然経過超過増悪説」に立ち、判断要素①~③にもとづき業務起因性を判断していることが確認された。
(3) 本件悪化部分への本人基準説の適用可能性について
本件は精神疾患事案であるが、悪化に関して言えば令和3年3月中旬の悪化時に、すでに原告は精神障害者手帳3級を取得して、手帳取得に関しては病院もそれを知っており、書証として正確に残っているのは令和2年12月7日時点で産業医Tが、令和2年12月4日時点で病院関係者Sが把握していることである(甲105、甲111の5)。
書証にある診断書提出は令和2年9月、産業医面談とは令和2年9月である(甲107)。
つまり、雇用形態は一般雇用のままであっても、診断書の提出および精神障害者手帳の取得を病院の経営陣が知った令和2年9月時点で、精神障害者であることを前提として業務に従事させたと言える。
前記判決は、「少なくとも」「身体障害者であることを前提として業務に従事させた場合に、その障害とされている基礎疾患が悪化して災害が発生した場合には」「業務起因性の判断基準は、当該労働者が基準となる」としており、身体障害と精神障害の違いはあったとしても、その考えの根幹は同様であると言える。
よって本件悪化部分に関しては「平均的労働者説」ではなく「本人基準説」に則って判断されるべきである。
13 悪化時期と治癒期間の存否について
(1) 悪化時期について
原告は令和3年5月1日から休職している。(甲105)
病院の産業医Tは令和3年4月9日に「原告様ですが、統合失調症の病状が悪化され、最近は勤務を休むことが増えたり、日中の倦怠感の増悪が認められたり、幻聴が聞こえる等の症状が悪化しているとのことで、御本人より、このまま仕事を継続していってもつぶれてしまうのではないかとの不安から、休職にての療養をご希望されました」と記載している。(甲105)
原告の主治医は産業医Tの質問「現在の症状で、放射線技師としての通常勤務が可能かどうかについて」に対して令和2年12月8日に「職場により通常勤務内容に差があるとは存じますが、現在そちらでの職務遂行能力を鑑み、許容範囲内の職務が全うできない、または、許容範囲内の職務で体調が悪化するようでしたら、通常業務は困難であると考えます。残業や休日出勤などについては必要最小限が望ましいと考えます」と回答している。(甲105)
つまり、原告の主治医としては日頃の原告の様子を見て、休職のタイミングは病院側で決めて欲しいと言っていると言える。
病院関係者Lは令和3年3月31日に「向こうというのは放射線の人達に話を伺う限りだとやっぱり原告さん自身が、これは疲れてるというよりは僕は薬のせいかなという気もするのだけど、あの~ちょっとそういう、いわゆるフルのね、そういうの(勤務)がキツイんじゃないかというような感じで」と述べて、要旨「放射線部の人から原告がフルタイムの勤務が辛そうである旨聞いている」と言っている(甲108、甲111の1)。
病院関係者Lは令和3年3月31日に「やっぱりある程度ちょっと例えば休息を取りつつ体の回復というところに、まず今の状態のまま続けるのは若干リスクかなという気がするので」と発言し、原告に対して休職を打診しており、原告はこれに同意した(甲108、甲111の1)。
原告は令和3年3月に5回の急な午前半日欠勤をしている。(宿直明けを除く)(甲99)。
それ以外の令和2年12月~令和3年2月に関しては急な午前半日欠勤は月当たりせいぜい1回~2回である(甲99)。
令和2年8月~令和3年5月までのカルテにおいて幻聴や視線恐怖感や倦怠感は継続して主治医に話しているが、幻視については令和3年3月19日に「疲れた時にCT室内にロードバイクが見えた」と主張しているのみである(甲106)。
一般的に統合失調症では、幻聴が聞こえることは有名であるが、幻視の症状が出るのは珍しいとされており、原告自身も急性期の頃以来久々に見た幻視であった。
以上から欠勤回数が増えており、医学的にも産業医Tに対して倦怠感の増悪や幻聴の増悪を訴えていることに加え、主治医にも幻聴に比べれば珍しい幻視を訴えていることから、症状が増えて、勤務も困難になっているといえ、平成3年3月中旬を悪化時期と推定すべきである。
(2) 治癒期間の存否について
本件疾病に関して平成27年7月中旬の発病から令和2年3月中旬の悪化時期までの間に治癒期間は存在しない。
14 悪化に関する感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事したについて
(1) 院内クラスターの発生と収束
令和3年1月9日に病院関係者Lは新型コロナウィルス感染拡大の概要(中間報告)として次のような声明を公表した(甲100)。
令和2年12月16日に病院関係者Uの新型コロナウィルス感染がPCR検査で確認された(甲100)。
これは同職員からは前々日(令和2年12月14日)の夜に症状の申し出があり、病院が直ちに行動履歴を聴取し、濃厚接触者とともに同日から自宅待機を指示し、翌朝に濃厚接触者とともにPCR検査を施行したところ同年同月16日に陽性の結果が判明したものである。(甲100)。
病院は感染者の発生については、速やかに所轄保健センターに報告(既報;当院ホームページお知らせ「当院における新型コロナウィルス感染症発生について」第1報)した(甲99、甲100)。
感染者発生を受けて接触が疑われた関係者にPCR 検査を実施したところ 放射線部内で計5名の陽性者が明らかになったが、感染の範囲は部署内に限られ限定的なものだった(甲100)。
令和2年12月19日にα 病棟職員の抗原検査で陽性が判明したが感染経路は不明であった(甲100)。
直ちに当該病棟への立ち入りおよび新規入院の受け入れを停止するとともに、当該職員
の濃厚接触者と受け持ち患者など、広い範囲でのPCR検査を施行したが、同病棟ではほかの発生はなかった(甲100)。
令和2年12月22日以降に多くの関係者の抗原検査およびPCR 検査の結果が出て、同年同月23日夜までにβ病棟患者、同職員、γ病棟患者、同職員、Δ病棟患者、同職員、透析室職員など20名以上の陽性者が判明した(甲100)。
ε病棟では令和2年12月23日に他院にてPCR 陰性を確認されて転院してきた患者が、翌日当院検査で陽性者と判明し、感染のさらなる拡大が認められたため、同年同月23日夜以降の新規入院、救急搬送、救急外来、初診外来、紹介などすべて停止とし、すでに予約済みの再診患者についても同年同月25日から(電話再診除き)停止とした(既報;同第3報)(甲99、甲100)。
病院は令和2年12月25日までに職員20名、入院患者34名の計54名の陽性者が確認され、(既報;同第4報)感染拡大防止のため行政をはじめ大学病院の危機管理・感染対策部門、専門家の方々の支援をもらいながら、すべての感染経路の洗い直しを行うとともに、感染対策の基本手技、ゾーニングから見直しを実施した(甲100)。
病院は令和2年12月26日に陽性患者の多くを新たに陽性患者専用病棟としたζ病棟に転棟して頂き、29日までに、陽性患者をζ 病棟、γ病棟に移動、β病棟を濃厚接触者、接触者でPCR陰性者の専用病棟とし、Δ病棟を閉鎖した(甲100)。
病院では同年12月29日以降はβ病棟で陽性患者が散発的に発生しているものの、それ以外の病棟からは新規陽性者は発生しておらず、職員についても散発的に陽性者が発生しているが、当該関連部署、病棟以外での陽性者の発生はない(甲100)。
令和3年1月9日15時までに入院患者71名(42~96歳、70歳代17名、80歳代30名90歳代9名)、職員45名(診療技術部門7名、研修医1名、看護師・看護補助者36名、委託業者2名)の陽性者が確認されており、患者は治療中27名のほか、感染隔離解除され原疾患の治療中、退院、転院などであり、感染後の死亡は9名(73~92歳)である(ただし、全てが新型コロナウィルスによる死亡と判断されているわけではない)(甲100)。
職員は1名が中等症でそれ以外の44名は軽症又は無症状で、16名が治療または自宅療養中で、治癒もしくは隔離期間解除で職場復帰可能もしくは復帰したものが29名であった(甲100)。
病院は令和3年1月13日に予約再診の患者に限り外来診療を再開し、同年1月20日より予約患者に限って入院診療を再開、さらに同年2月1日より診療機能を全面的に再開させている(甲99の9頁)。
(2) 原告が新型コロナウィルス感染症(COVID19)の最前線で業務に従事していたこと
放射線部内で感染が広まった結果、勤務できる状態となったのは原告、病院関係者D、病院関係者H、病院関係者O、病院関係者Fと、もう一人合計6名であった(甲100)。
タイムカード記録上からも、この院内クラスター発生時期令和2年12月15日~令和3年1月31日に原告が業務を行っている(甲99)。
原告はこの時は、カテーテル室の責任者であり、術後管理を要する新規カテーテル手術等は全て中止となっていた。
放射線部では職員の感染リスクが平等になるように、全員が持ち回りでレッドゾーンへのポータブル撮影や、レッド対応が必要な患者のCT撮影などの対応(以下まとめて「NC対応」という)を行った。
NC対応の際には基本的に二人一組で行動し、N95マスクやゴーグル、帽子、ガウン、二重手袋などのフル防護体制で行った。
NC対応の防護ルールも時々刻々とアップデートされ、病院としても部署としても初めての状況に試行錯誤しながら臨んだ(甲101、甲102、甲103、甲104)。
NC対応は日によって件数は異なるものの、ほぼ毎日行っていた。
新型コロナウィルス感染症は感染しながらも無症状であることも一定数あることは周知の事実であり、実際に一般患者だと思って無防備で撮影した人のCT画像が新型コロナウィルス性肺炎らしい時もあった(新型コロナウィルス性肺炎は胸壁周辺に集中して炎症像が現れる少し独特の所見を呈する。)。その時は最終的に陰性であったものの常に緊張感を強いられていた。
病院での感染後の死亡は9名(73~92歳)であり、高齢者が中心であるが、連日の報道等では基礎疾患のある30代の死亡例も散見され、この頃すでに初期の糖尿病(甲106のカルテ上の10月10日の欄に初期のDMという記載がある。)と診断されていた原告は恐怖を感じていた。
令和3年3月31日に病院関係者Lは「それこそクラスターの最初のいわゆる発信地になっちゃったから放射線部だとかがね。あのすごく大変でその間も非常に頑張ってくれたと伺っているのだけど」と証言している(甲108、甲111の1)。
また病院関係者Lは「今だにやっぱりちょっと神経使ってCT、MR撮らなかんというところがあるんだけど」とも証言している(甲108、甲111の1)。
病院関係者Lの証言からも原告が新型コロナウィルス感染症に対する最前線勤務を精力的に行っていたことや、院内クラスター終息後も緊張感ある業務が続いていることが分かる。
(3) 小括
上記出来事は、認定基準の別表1「業務による心理的負荷評価表」の具体的出来事項目14「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」の「「強」になる例」として記載されている「新興感染症の感染の危険性が高い業務等に急遽従事することとなり、防護対策も試行錯誤しながら実施する中で、施設内における感染等の被害拡大も生じ、死の恐怖等を感じつつ業務を継続した」に当たるので、その心理的負荷は「強」である。
原告は、統合失調症を発病していたが、令和3年3月中旬頃から悪化し、令和3年5月1日から休職している。このように統合失調症が悪化したのは、令和2年12月に病院において新型コロナウィルスのクラスターが発生し、令和3年1月末にかけて対応しなければならなかったという出来事があってからである。
原告は、認定基準が発出した後である、令和6年1月に行った本件第二回休業補償給付請求において、認定基準に基づいて主張したが、発症について労災不支給であったという理由で、検討すらされなかった。悪化について全く調査もしなかったのは不当である。
15 主な出来事の時系列表
以上、原告は心理的負荷について主張したが、これを時系列でまとめると以下の通りになる。(以下の表においては「病院関係者」は省略する。)
表6 時系列出来事一覧
| 日付 | 内容 | 引用 |
|---|---|---|
| 平成24年4月 | 原告とIが病院へ入職する。 | |
| 平成24年7月 | 原告が待機勤務を開始。 | |
| 平成24年夏頃 | インシデントにてAから指導される。「あぁん?」との威嚇はあった。 | |
| 平成25年1月 | 原告が宿日直勤務を開始。 CT担当者としての研修が始まる。 | |
| 平成25年3月 | カテーテル室の担当者1名退職。 Eが翌年での退職意向をAに伝え、AはEの役職会議出席を禁じた。 原告が米国雑誌に原著論文を発表。 | |
| 平成25年 4月~5月 | Qが入職する。 Eが原告に対して椅子を蹴飛ばす、白衣を投げつけるなどの行為を行う。EはAを、原告はEを医療安全管理部のKに通報した。 | 甲4の1頁 |
| 平成25年6月 | 医療安全管理部のKから放射線部に対する一斉聞き取り調査が行われる。 原告とEの件は解決。Aの態度は変わらず。 原告のCT担当者研修が月末で終了。 | 甲4の2頁 |
| 平成25年7月 | Bが入職する。Hが16列CTにてBを指導する。原告は64列CTを任され、Aから撮影者名の改竄指示を受ける。 | 甲5 |
| 平成25年8月 | Bと原告だけでCT業務を開始。撮影者改竄の指示は出続けていた。 | 甲5 |
| 平成25年9月 | 原告がJの部下となる。 | 甲4の6頁 |
| 平成26年3月 | Aからの撮影者改竄指示終了。 | 甲5 |
| 平成26年4月 | 原告が行政登録上も実務上もCT専従業務従事者であるとAから聞かされる。(行政登録上は同年2月からと後に判明している) 患者からクレームを受けAとJより指導。 Aから医学物理士取得に向けての最初の打診がある。この時点で原告は内心では取得意思なし。 | 甲4の7頁 |
| 平成26年5月26日 | 患者からのクレームを受けAとJから指導。 依頼検査でのミスを朝会議で公表謝罪させられる。 | 甲4の8頁 |
| 平成26年6月11日 | 患者からのクレームを朝会議で公表謝罪させられる。 | 甲4の8頁 |
| 平成26年8月12日 | 診察場からのクレームを朝会議で公表謝罪させられる。 | 甲4の9頁 |
| 平成26年9月30日 | CD焼き間違いのミスを朝会議で公表謝罪させられる。 | 甲4の9頁 |
| 平成26年11月 | CD焼き間違い、耳鼻科画像送信ミス、心臓CT読影依頼の出し忘れ、宿直時の朝準備ができてないとMからクレームを受けて、 それぞれAとJから指導。 | 甲4の9頁 |
| 平成26年 11月30日 | 原告が小腸閉塞にて緊急入院。 | 甲21, 甲22 |
| 平成26年 12月5日 | 原告がAに退院予定日を伝えたら現場復帰日を主治医に聞けと怒鳴られる。 | 項目1(16) |
| 平成26年 12月9日 | 原告現場に復帰する。 | 甲21, 甲22 |
| 平成26年 12月22日 | 患者が検査中に嘔吐し原告が対応する。 | 甲56 |
| 平成27年 1月4日 | 原告の遅れた年賀状がAに届く。 | 項目1(7) |
| 平成27年 1月5日 | 原告が連続勤務1開始。 | 項目4(2)、甲19 |
| 平成27年 1月16日 | 原告がTV検査の画像を送り忘れるインシデントを起こす。 原告への右心房血栓撮影失敗に対する医者からのクレーム。AとJからの指導。 年賀状について原告へのAからの指導。 | 甲4の9頁 10頁 |
| 平成27年 1月17日 | 原告が連続勤務1終了。 | 項目4(2)、甲19 |
| 平成27年 1月19日 | B休職開始。 原告のTV検査の画像を送り忘れるインシデントに対するAとJからの指導。 | 甲32 甲4の12頁 |
| 平成27年 2月10日 | 原告が血管外漏出事故を起こす。 | 甲56 |
| 平成27年 2月19日 | 誤診に繋がる可能性のあるインシデント。 原告はAとJから指導を受ける。 | 甲4の10頁 |
| 平成27年 3月5日 | 原告が重篤な造影剤アレルギー事案に遭遇する。 | 甲56 |
| 平成27年 3月8日 | 原告が連続勤務2開始。 | 項目4(3)、甲19 |
| 平成27年 3月16日~20日 | 原告が64列CTの鉛ガラス窓の漏洩を知る。Aに相談するがAは鉛ガラス窓の修理を拒否する | 甲4の23頁24頁 |
| 平成27年 3月20日 | 原告が連続勤務2終了。 | 項目4(3)、甲19 |
| 平成27年 3月31日 | Bの休職最終日。 | 甲34、 甲35 |
| 平成27年 4月1日 | 患者が検査中に嘔吐し原告が対応する。 | 甲56 |
| 平成27年 4月8日 | 呼び出しミスでがん患者を激怒させる。 AとJから指導。 | 甲4の10頁 |
| 平成27年 4月20日 | 業務にCT被ばく線量の確認作業と撮影条件の再検証作業の追加。 | 甲8の13頁~15頁 |
| 平成27年 4月20日頃 | CTCの読影スキル習得課題リストを渡される。 | 甲8の11頁12頁 |
| 平成27年 4月23日 | 耐性緑膿菌持ちの患者が入院したことで全員に注意喚起がなされる。 | 甲52 |
| 平成27年 4月27日~4月30日 | 面談にて医学物理士を目指すための詳細な計画を立てさせられる。本格的な勉強を開始する。 | 甲8の10頁 |
| 平成27年 5月12日 | 患者が検査中に嘔吐し原告が対応する。 | 甲31の1頁 |
| 平成27年 5月19日 | 患者を長時間待たせたことに対する患者からのクレームを受けてAとJから指導。 | 甲4の11頁 |
| 平成27年 5月20日 | 朝会議で前日のミスを報告および謝罪する。 | 甲4の11頁 |
| 平成27年 5月22日 | 依頼先クリニックからCD焼き間違いに関するクレームを受ける。原告が電話にて謝罪し訪問日程調整。報告書を作成する。 | 甲4の11頁 |
| 平成27年 5月25日 | 出勤するAを待ち構えて先日のCD焼き間違いの件を謝罪し、原告とJは一緒にライナック室でAから指導を受ける。 | 甲4の11頁、13頁 |
| 平成27年 6月5日 | 患者が検査中に嘔吐し原告が対応する。 | 甲31の2頁 |
| 平成27年 6月22日 | 依頼検査の撮影範囲ミスに関しての指導をAとJから受ける。原告はAよりCT専従業務従事者を外すことも検討すると言われる。 | 甲4の11頁 |
| 平成27年 6月23日 | 前日の件を朝会議で報告および謝罪させられる。ミエロ撮影後のロケーター画像を誤って送ってしまう。Jより指導。「お前は感覚が普通の人と違う。お前の価値観は普通の人の価値観とはずれている」と発言。 | 甲4の14頁 |
| 平成27年 7月8日 | 院内暴力事案コードホワイトに対応。 | 甲23の21頁 |
| 平成27年 7月11日 | 原告発病推定時期の開始。 | |
| 平成27年 7月13日 | コードホワイトの報告が漏れていたことが発覚。AとJより指導。「将来部下を付けることはできない」「部会も下位のものが出た方がマシ」との発言がある。 | 甲4の12頁 |
| 平成27年 7月16日 | 原告が、いつもしている集計操作方法を思い出せずに泣き崩れる。初めての幻聴「死ななきゃね」を認知する。Aと緊急面談。医学物理士をあきらめても良いと初めて言われる。 | 甲8の9頁 |
| 平成27年 7月20日 | 原告発病推定時期の終了。 | |
| 平成28年4月1日 | 精神科初診。 | |
| 平成28年6月上旬 | 本件疾病の確定診断。確定診断を受けた旨をAへ報告。 | |
| 平成28年9月頃 | 原告が休憩場所を第三豊郷ビル407号室に変更する。昼の電話番を免除される。 | |
| 平成29年3月 | 月末でCT専従業務従事者としての任期満了。 | |
| 平成29年6月17日 | Aが自死する。 | 甲87 |
| 令和2年2月7日 | 原告がRに労災請求を検討している旨をメールで職員相談する。 | 甲110 |
| 令和2年2月12日 | Gが自身の使用するパソコンに平成23年認定基準をダウンロードする。 | 甲110 |
| 令和2年5月頃 | Gが古い朝会議の議事録を破棄するようにQに指示する。 | |
| 令和2年7月 | 原告がGに初めて不正会計をやらされていたことや労災請求を考えている旨を相談する。 | |
| 令和2年8月頃 | 原告がAにやらされた不正会計を警察に相談する。主たる被疑者A死亡済みのため不受理。 | |
| 令和2年8月下旬 | Jが原告とQの指導記録のみを部署の共有パソコンから削除。 | 甲110 |
| 令和2年9月 | LへAにやらされた不正会計を内部告発。 原告が病院へ診断書を提出。 原告が精神障害者福祉手帳3級を取得。 | 甲5、甲107 |
| 令和2年9月月末 | Jが退職する。 | |
| 令和2年10月26日 | 被告へ療養補償給付請求する。 | 甲1 |
| 令和2年12月4日 | Lから不正会計の事実認定。今後休職も検討すると言われる | 甲5 |
| 令和2年12月8日 および9日 | DとHに対してLやSから不正会計に関する関係者聞き取り調査があったかどうかを原告が確認したところ「なかった」旨の回答を得る。 | 甲109 |
| 令和2年12月中旬 | 新興感染症の院内クラスター発生。 対応を巡りGと電話で口論となる。 原告がライナック室の鍵の保管場所が変更されていることに気付く。 | 甲99、甲100、甲110 |
| 令和2年12月中旬~令和3年1月31日 | 幾度となくレッドゾーンに立ち入り、新興感染症に対して最前線で勤務する。 | |
| 令和3年2月1日 | 外来診療が再開するも厳戒態勢が続く。 | |
| 令和3年3月31日 | Lより休職の打診。 | 甲108、甲111 |
| 令和3年4月7日 | 療養補償給付不支給決定。 | 甲2 |
| 令和3年4月9日 | 産業医が原告主治医に対して5月1日より休職措置を取る旨を通知する。 | 甲105 |
| 令和3年5月1日 | 原告休職。 |
第4 結語
以上の通り、原告は、総合すれば心理的負荷の強度は「強」と評価するべき状況にあって、統合失調症を発病し、さらに悪化させたのであるから、この統合失調症の発病および悪化は業務に起因するというべきである。
本件不支給処分が違法であることは明らかであるから、本件処分は速やかに取消されるべきである。
以上